ショパンコンクール本大会 雑感

ショパンコンクールが終わってしまいました。次は5年後――ちょっとしたロス状態です。
予備予選時にも雑感を記していたので、それを踏まえて本大会についても残しておこうと思います。
まずは、一応ここに結果を記しておきます。

第1位:エリック・ルー(アメリカ)
第2位:ケヴィン・チェン(カナダ)
第3位:ワン・ジートン(中国)
第4位:桑原志織(日本)/ティアンヤオ・リュー(中国)
第5位:ピョートル・アレクセヴィチ(ポーランド)/ヴィンセント・オン(マレーシア)
第6位:ウィリアム・ヤン(アメリカ)

チェコ・フィルの記事にも書きましたが――我が推し様のケヴィンくんは2位、1位は10年前に4位入賞でありながら再挑戦したエリック・ルー氏。

結果論かもしれませんが、今大会は結局 エリック・ルーとケヴィン・チェンの一騎打ちだったのかな、というのが私の印象です。

20歳のケヴィンくん、これまでに受けたコンクールは全て優勝、今回も優勝候補筆頭でした。なので、まだ彼の演奏に触れる前は、とにかくめちゃめちゃ弾けるのだろうと、やっぱりショパンコンクールは何だかんだ言っても「めちゃめちゃ弾けるで選手権」ではないか、と多少面白くない気持ちでいたのですが――前記事にも書いたように、3次予選で初めてその演奏に触れて、一気に惚れ込んでしまったのです。

まず、小柄で手が小さく、腕も短いのが驚愕で――ピアニストとしては不利と思える体格なのですが、そんなことは全く関係なく、やっぱり「めちゃめちゃ弾ける」のです。が、そこには音楽がある。意味不明かもしれませんが、ともかくそう思ったのです。曲全体はもちろん、フレーズ、さらに1音にまで細分化しても、そこには必ず音楽が、耳を捉える強い魅力があるのです。ひとつひとつの音に美しさがある。テクニックも素晴らしいけれど、「美音である」――これが私のツボなのだと再認識したところです。

ということで、他のコンテスタントを視聴しようと思いつつ、つい彼のアーカイブばかりを繰り返し観てしまいました。2次予選でエチュードop.10の12曲全てを弾いたときは、制限時間ゆえの「爆速」で――苦虫噛み潰しの審査員がいたかもしれませんが――しかし超速弾きでも全く崩れず、しかもひとつひとつに音楽があるのには驚きました。たぶん1.2倍遅で聴いても全く普通に美しいと思います(やってませんが笑)。

その一方で、エリック・ルー氏を聴いたときは、その佇まいも相俟って、深い感動を憶えました。コンテスタントではなく、すでに大成した演奏家の模範演奏を聴いているよう。まだ27歳とはいえ、経歴としてはベテランの域に入りつつあるわけで、こんな人が出てくるのは反則でしょう、と思ったりも。しかし、前回4位ということは、それ以上、つまり1位を狙って出てきているわけで、そのリスクを背負っての挑戦は尊いーー。

そんなわけで、途中から「一騎打ち」だと思い始め、結果もそうであったのですが――順当とは思いつつ、我がケヴィンくんは無傷のタイトルホルダー、名実ともに天才中の天才でいて欲しかったな、と。しかし一方で、優勝後にショパン演奏ばかりを求められることから逃れられるのはよかったとも思っています。ショパンよりはリスト、それにラヴェルなども聴いてみたい――。

と、推し様で長文になっていますが、他に注目していた方々についても。

まず、予備予選の記事で触れていた、中川優芽花さん。2次予選で終わってしまったのですが、1次予選のときから、予備予選時とは明らかに異なる不調を感じました。2次では途中洟を擤んでいたので、風邪を引いて体調が優れなかったのかもしれません。ミスタッチが起きても崩れないのはさすがだけれど、頻発するのは辛い。しかし、24の前奏曲は、ひとつひとつの作品に多彩な表情があり、とても魅力的な演奏でした。それにしても、ちょっとしたコンディションで変わってしまう、本当にセンシティブなものなのだと感じた次第です。

それから島田隼さん。なんとエリック・ルー氏にも教わっているそうで、師弟揃っての出場?そんなんあり?(お顔立ちも似ているような?)。島田さんは場数が踏めていない印象がありました。それに、ヤマハがあまり鳴らない。スタインウェイを選べばよかったのに!でも彼はまた挑戦してくれるような気がしています。

ここで、ピアノについて。今回はスタインウェイ、シゲルカワイ、ヤマハ、ファツィオリ、ベヒシュタインの5社からの選択。1次でベヒシュタインが、2次でヤマハが消え、受賞者では、スタインウェイ3、カワイ3、ファツィオリ2――しかし、これ、オトナの商売に若者が振り回されているように見えて何だか気の毒。余計な迷いを与えているようで。選定のための時間も短く、ステージの置かれた位置で本番とは響きも変わるだろうし。

ところで、優勝者は、ピアノがファツィオリ、ダン・タイ・ソン門下、中華系というのは前回と同じ。ちなみにファイナリスト11名のうち中華系は7名。中国ではピアノ人口が3~4,000万人いると言われているそうなので、これは分母のケタが違います。

私としては、魅力的なピアニストであれば国籍、人種は関係ないのですが――しかし、5位のピョートル・アレクセヴィチ氏の演奏を聴いた際には、他のファイナリストには抱かなかった感興が沸き起こりました。発音やリズム感が他のコンテスタントとは全く異なるのです。これは、深い母音と巻き舌で喋る人の音楽だと思いました。そのあとで聴いたケヴィンくんのピアノに都会的な洗練を感じるほどに、民族色、土着性、そんなものを感じたのです。

これは、このような音楽を奏でるコンテスタントがもっと出てこなくてはならないのではないか、彼だけに競わせてはならないのでは?と感じた次第。

と、そんなこんなを色々書き連ねましたが――あれ?日本人ファイナリストが出てこないじゃないか? すみません、印象に残った順に書いていくとこのようなことになりました。

牛田智大さんのことなど、他にも色々書きたいことはありますが、ひとまず今日はこの辺で。

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