2022年3月20日(日)日本オペラプロジェクト2022 「夕鶴」

14時開演 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

今年は順調にオペラを鑑賞できています。
今回は不朽の名作「夕鶴」。

この作品、初演は1952年で、なんと今年で70年。世界で少なくとも800回は上演されているとのことで、まさに日本を代表するオペラです。

このプロダクションはこれが3回目の上演だそうですが、私は今回が初めての鑑賞で、清水徹太郎さん、石橋栄実さん、というキャスティングに魅かれてチケットを購入したのでした。

オーケストラがピットに入る通常のオペラ形式での上演。
舞台の前面にプロセニアム状にかまくらの入口のような構えがあり、物語の世界を覗いているような感覚にさせられます。中央にふたりの住まいの「あばらや」が据えられており、全編通してそのままの配置。奇を衒うことのない、わかりやすい演出でした。

冒頭こどもたちの歌に続き、清水徹太郎さんが歌い始めると、その突き抜けた透明感のある声に一瞬で意識が集中させられます。レンズのピントがピシっと合い、鮮明な視界を得たときの快感、そんなことを感じました。石橋栄実さんのホールにふわりと広がる高音と与ひょうをいたわる繊細な歌いまわしが美しい。歌詞と歌唱法の一致に感じ入ることができるのは、日本語のオペラならではです。

運ずの晴雅彦さん、惣どの松森治さんは、「竹取物語」で観たばかり(笑)。晴さんのキャラクターはそのままで、憎めないお調子者といった感じ。松森さんは凄みを感じる超低音とめちゃ「悪そうな」メイクでの「悪役」。

いずれも関西の誇るオペラ歌手での素晴らしい演唱を堪能しました。

ところで、初めてこのオペラを観たのは8年前だったのですが、民話「鶴の恩返し」が恋物語であり、金銭欲によって純愛が引き裂かれる悲劇であるということと、そのストーリーのもつ普遍性とに深く心を動かされたものでした。そしてラストの与ひょう「つうよ!」の叫びに号泣。

ところが、このプロダクションの演出家、岩田達宗氏のプログラム・ノートにはこうありました。「二人の恋は金銭や経済などという虚構に破壊されたのではない。彼らが鶴と人間であったから、それだけだ。彼らの激しい恋の激情は、彼らを破壊するのだ。それでも彼らは愛し合う。だから彼らは美しく、『夕鶴』という作品は美しいのだ」。

「鶴と人間のすれ違いによる悲劇」ですか?
・・私には理解不能です(笑)
そもそも別れることは運命であって、金銭欲はその引き金に過ぎない、ということでしょうか?

ラストシーンは、よろよろ飛び去る鶴を見上げる、というものではなく、つうがいなくなってしまった機屋を与ひょう、運ず、惣どが呆然とのぞき込むというもの。つうに去られてしまった与ひょうの哀れさが前回観たときほどには感じられなかったのは、こちらの耐性?によるものだけでなく、その演出によるものだったのかもしれません。

◇座席
2階最前列中央。
中ホールは初めてでした。「芝居小屋」的な内装の演劇空間。
冒頭子どもの歌でのPA使用に「いきなり」感がありましたが、こちらも瞬時に慣れたのかその後の違和感はありませんでした。

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