2022年8月9日(火)オペラ「泥棒かささぎ」

14時開演 フェスティバルホール

昨年6月5日の予定が1年以上延期され実現した公演でした。

歌唱もキャスティングも、そして音楽も素晴らしく、どんでん返しでハッピーエンドに終わるストーリー、明るく軽やかでありつつも心にくさびを打つようなロッシーニの音楽。とても充実感のあるオペラでした。

「演奏会形式」と書かれていますが、「セミ・ステージ形式」といった方が近い感じで、オーケストラピットを迫り上げた前面のスペースに加え、舞台左右に階段付きの通路、それに続く後部にはひな壇が設えてあり、これらのオケを囲む四周の空間を使っての演技もついた上演。キャストには場面に応じてスポットライトが当てられるほか(マエストロ登場の際にもスポットライトが追っていたのは笑えました)、照明の色彩による演出も行われていて効果的でした。

どの役柄も嬉しくなるくらいの適役で、農場主の晴雅彦さん——何を演じても役柄の方を自分に引き寄せてしまう、オペラ歌手の中でも稀有の存在——その妻のルチーアは福原寿美枝さん。深い美声に加え、遠目に草笛光子を彷彿とさせる佇まいはドラマに説得力をもたらすものでした。

予習の段階で「この役は小堀さん!」と直感した(キャストを把握していなかったのです)息子ジャンネットの小堀勇介さんは、期待通りの明るく通りのよいテノール。初めて聴いた清原邦仁さんは私としては「発見」で、キャラクター・テノールの道化の混じった役柄が実にぴったりだったのですが、シリアスな役でも聴いてみたいと思いました。ニネッタの老田裕子さんの的確で伸びのある歌唱も素晴らしかった。

そして、やっぱり青山さん!これだけのキャストの中でも、圧倒的存在感の歌唱。フェスティバルホールを余裕で満たす声量。深い低音も素晴らしいのですが、コロラトゥーラの軽やかな歌いまわしも巧みで、歌唱技術の幅の広さにも感嘆しました——園田マエストロで大阪交響楽団でイタリア・オペラで青山さん素晴らしい・・ってこの間の「ファルスタッフ」と同じですね(笑)

さて、オペラのストーリーはというと、農場主の小間使いニネッタが銀の食器を紛失したかどで裁判にかけられ、なんと「死刑」を宣告されるのですが、彼女に横恋慕する「代官」がそれに絡んでいるという、途中までは「トスカ」に似た話。そこから急転直下、実は食器(スプーン)を盗んだのは巣作りの「かささぎ」でした、ニネッタは晴れてジャンネットと結婚します、めでたしめでたし、というもの。

音楽はロッシーニだけあって、苦悩を歌っているにもかかわらずとても軽やか。「悲劇を暗示する音楽」はよくあるけれど、これは「ハッピーエンドを暗示する」という珍しいパターンなのでしょうか?

とは言うものの、序曲の冒頭のドラムロールは死刑執行を連想させるものであるし、2幕のどんでん返し直前まで奏でられる「葬送行進曲」は、それまでの軽やかな旋律から一変してインパクト大なものでした。このオペラ中、唯一覚えて帰れた旋律(笑)。負の感情を伴うものの方がより記憶に刻まれやすいのか、それとも単純にキャッチーな音楽であったのか?(余談ですが、この旋律はショパンの「葬送ソナタ」に酷似していて、ショパンはこのオペラを観ていたのかもしれないと思いました)

そのほか音楽で印象に残ったのは、フォルテピアノが使われていたこと。フォルテピアノのみの伴奏でアリアや二重唱が歌われる場面などもあったのですが、ロッシーニの時代の音色なので音楽とも歌ともぴったり。舞台上で直に見える木目の美しい楽器は大道具のようにも見え、劇中屋敷で演奏されているような雰囲気が出ていたのも良かったです。

衣裳は演奏会形式なので男性はタキシード(ズボン役ピッポの森季子さんのタキシードにハイヒールは素敵でした)。これはさほどに違和感はなかったのですが、ニネッタ老田さんは1幕2幕通して、エメラルド・グリーンのベアトップのドレスでガラ・コンサートのような出で立ち。たとえ手持ちのものでも、もう少し役柄や状況に寄せた衣裳であればこちらももっと感情移入ができたように思います。歌唱が素晴らしかっただけに少々残念でありました。

ドラマの展開として、前述の「葬送」の印象が強すぎ、また「かささぎスプーン発見」から幕切れまでの時間が短すぎることもあって、幸せ気分を十分に味わえないまま終演となってしまうのが惜しい、と感じましたが、それでもこのオペラ、もっと上演される機会があってもよい作品だと感じました。

ところで、物語の要となる泥棒のかささぎは、バレリーナが演じていました。この演出センスは素晴らしい。模型の鳥を飛ばすよりも、ずっと洗練された手法です。鷺を彷彿とさせる衣裳で、舞台狭しと軽やかに舞い跳び、幕切れではキャストの真ん中に見事な開脚で腹ばいになって、いたずらっぽく両腕で頬づえ。キュート!最後に全部持って行きましたね!って、そういえば「タイトルロール」はこのコでした。

◇座席
2階最前列中央付近。1年以上前に入手したチケット。
「へーこんないい席を取っていたんだ」と我ながら感心(笑)

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