2022年11月26日(土)沼尻竜典オペラセレクション「セビリアの理髪師」

14時開演 びわ湖ホール 大ホール

歌唱、音楽、演出、舞台美術、そのどれもが高いレベルで揃った非常に魅力的なオペラでした。

このオペラを生で観るのは2回目なのですが、こんなに音楽と動きがピッタリなオペラだったのか!とまず感嘆。歌わない部分の所作にまで音楽がつけられていて、それが状況やら心情やらを表していて、クスッと、或いはアハハと笑わせてくれるのです。ロッシーニの巧みさとともに、今回の演出の素晴らしさも感じました。

その演出は舞台美術とも密接に組み合わせられていて、快感すら覚えるほどでした。

ステージ上に芝居小屋の回り舞台が設えられており、そこで繰り広げられる今も昔も変わらない人間の欲得にまつわるドタバタ喜劇を、こちら観客がさらに俯瞰して鑑賞するという仕掛け。これは劇をもう一歩引いて見ることで客観性が増し、可笑しさが倍増するものだ、という新たな発見を与えてくれるものでした。こういうプラス・アルファの気づきを得られることは、オペラに限らず芸術を鑑賞する喜びのひとつでもあります。

そして歌手陣も抜けがなく、素晴らしかった!
なかでもバルトロ黒田博さんの艶のある美しい低音と、圧倒的な存在感はさすが!ロジーナ富岡明子さんは、メゾですが高音(確か「今の歌声は」の最高音はハイC)も冴えわたって美しく説得力ある歌唱。アロマヴィーヴァ伯爵 中井亮一さんのアジリタも素晴らしかった。今や日本でも「ロッシーニ歌い」といわれる歌手が揃ってきているのですね。

前方の座席だったので、マエストロは部分的にしか見えなかったのですが、ほぼずっと歌手と向き合って振っておられるのがわかりました。このオペラはアジリタ以外にも早口の歌詞が多いので、歌手の呼吸を見て、歌いやすいテンポで進めておられるのだな、と実感。今夏の「オペラ指揮者セミナー」で、ソプラノの佐々木典子さんが受講生に対して「ずっと気持ちはこちらとつながっていてほしい」と言っておられたのを思い出しました。

ところで、再び演出と舞台美術の話に戻りますが・・
2019年に新国立劇場で鑑賞した「ジャンニ・スキッキ」も、同じく粟国淳さん演出、横田あつみさんが舞台美術だったのですが(指揮も沼尻マエストロ)、これもとても素敵な舞台だったのです。舞台全体ががデスクの上という設定で、デスク上の本やペン、それに遺言状などが巨大なセットになっており、歌手が小人のように見えるという仕掛け。遺産相続でドタバタを繰り広げる「ちいせぇ奴ら」というメッセージがひと目見るなり伝わってきました。デスクの抽斗が何かを隠したり(ブオーゾの遺体も笑)、歌手の出入りにも使われていて、なんとよくできていることか!と感心するとともに、衣裳も含め全体の可愛らしい造りになんとも言えない幸せな気分になったものです。

今回の舞台でも、バルコニーの窓がペラペラの幕に描かれたもので、それをめくり上げるロジーナに笑えたり、書き割りの裏側が見えたりもする回り舞台の仕掛けでクスっと笑えたりで、あの幸福感が蘇ってきました。

2日目のキャストも魅力的だったので——アロマヴィーヴァ伯爵 小堀勇介さん、フィガロ黒田祐貴さんは特に聴きたかった——両日とも行きたかったのですが、翌日は別のどうしても行きたいコンサートと被っていて断念。が、今こうして思い返しても、この素晴らしくよくできたプロダクションをもう一度観たかったなぁ、としみじみ感じているところです。

◇座席
1階K列上手通路際。字幕が両側とも若干見えにくいけれど、舞台ほぼ全体が見渡せ、かつよく見えるいい位置でした。ピットが全く見えないのは残念ですが、その意味でも2日目も行きたかった。

◇その他
粟国さんのプレトークが開演前にあったので、それに間に合うように出掛けたのですが、名神高速が事故渋滞。通常ドアtoドア1時間のところ2時間以上も掛かってしまい、なんとかギリギリ開演5分前に席には着けましたが、昼ごはん抜き、トイレも我慢の限界スレスレでした(笑)

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