20時開演 スカラ座
ツアー5日目。
この日は移動日。7時半にポーターサービスが部屋前まで集荷に来るので、6時半から朝食。8時過ぎにホテル発。到着と同じベルリン ブランデンブルク空港からイタリアのベルガモ空港へ。アルプス上空の窓から見える雪を頂いた山々が美しい。空港からバスでミラノへ移動。
ほぼ移動に費やした日でしたが、夜には移動先でオペラが観れる。鑑賞という目的の上では無駄がない、効率的なツアーです。
ミラノは大学時代の友人が一時期住んでいたので2回訪ねて行きましたが、それはもう23年も前。つい最近のような気がしていましたが——光陰矢の如し。しかし、また来ることができたのは幸せです。
さて、この日はスカラ座でワーグナー「ラインの黄金」。
スカラ座でのリング・ツィクルスのプレミエです。当初は指揮がクリスティアン・ティーレマン氏で——ティーレマンでリングが聴けるとは!——大変楽しみにしていたのですが、腕の腱を痛めたとのことで、ツィクルス全てを降板。とても残念。代演はシモーネ・ヤング氏でした。
リングはびわ湖ホールのツィクルスで、ミヒャエル・ハンペ氏演出の極めて正統的な舞台を観たので、さて、今回のデイヴィッド・マクヴィカー氏ではどんな演出になっているのかと興味津々でしたが——少々拍子抜けするくらい奇を衒わない、判りやすいものとなっていました。
冒頭のラインの川底の場面では、岩場が大きな掌となっており、その上でラインの乙女が演唱するのですが、開演前の緞帳にも掌がデザインされており、このツィクルス全体のアイコンとなっているようでした。4夜通して観ると最後にその伏線が回収されるつくりとなっているのかもしれません。
3月に新国立劇場で観た、同じマクヴィカー氏演出の「トリスタンとイゾルデ」は月がアイコンとなっていたので、丸い形を用いるのが氏の手法なのかもしれません。
と、そこに現れる醜い小人族のアルベリヒ。このアルベリヒが円谷プロの怪獣ばりの被り物(タガメっぽい)で登場したので、「変な演出ではない」ことを確信しました。その後に現れる神々も古代神話に沿ったもので、ヴォータンには眼帯と槍、フリッカやフライアは美しいドレス。また、巨人族兄弟ファーゾルトとファフナーは、50㎝くらいの竹馬?に乗り、大きな顔の面を背中から取りつけ、なかなかの重装備かつ少々危なっかしい扮装。転倒防止対策と思われるダンサーが常に隣に寄り添っていました。ともかく、判りやすい衣裳、扮装で良かった!
ところで、スカラ座の舞台は響かない、と聞いていましたが、なるほど残響が感じられず、その分歌詞が明瞭に聴こえるのです(ドイツ語は理解できませんが)。ベルリン国立歌劇場も残響が少ない印象でしたが、スカラ座はハコが大きい分一層それを感じました。
この日は前から6列目、上手側の席でしたが、オケの音のバランスが悪く、なぜかクラリネットばかりが大きい音で聴こえてくる不思議な音響。クラリネットは通常通り指揮者の正面奥だったのですが、客席に近い金管類よりも大きく聞こえるのです。その音響の所為なのか、冒頭のホルン8本が徐々に重なり奏でる「ラインの動機」の滔々とした響きが味わえず残念。
歌手で最も素晴らしいと感じたのは、ファーゾルトのパク・ジョンミン氏。深くつやのある低音で、声量が他の歌手より一回り大きい印象。他の歌手の方ももちろんレベルの高い演唱ではあるのですが、前日の物凄い声量軍団の「影のない女」を聴いたあとでは、劇場が広いこともあってやや遠いと感じました。慣れとは不幸なものであります。
ところで、スカラ座では字幕が前席の裏側に取り付けてあり、かなり見やすいものでした。タッチパネルで手前に引くと角度も調整でき、多言語対応。演目によって異なるようですが、この日は上から順に、英語、イタリア語(デフォルト)、ドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語。「日本語がないのは国力の違いか?」と隣席の方が呟いておられましたが——バブル期だったら日本語もあったかも?しれません。
まぁいちばん理解できるのはやはり英語なので、英語を選んだのですが——小さい画面とは言え、一度に4段も出てくる英語は読みきれないし、そもそもわからない単語だらけ。翌日のランチでその話をしたところ、あれはワーグナー独特のもので、ドイツ語の歌詞はドイツ人でもよくわからない古いドイツ語なのだと教えていただきました。これまで見ていた日本語字幕は、相当に練られた意訳だったのですね。いろいろと勉強になります。
ということで、字幕追いは捨て(ベルリンから既に捨てていましたが)自分の記憶だけを頼りに、音楽と舞台を楽しみました。といっても限界があり、アルベリヒってこんなにたくさん喋ってたっけ?と思う間に気を失い、ハッと目覚めても舞台上の変化はなく——といった「ワーグナーあるある」も体験しました(びわ湖の時は一切なかったのに)。
といったことで、それなりに楽しめ、勉強にもなったけれど、めちゃ感動というわけでもないワーグナーでした。一番の原因はオケの響きのような気がしていますが。
カーテンコール時、演出チームが現れると少なくない「ブー」が飛んでいました(本場の「ブー」初体験)。オーソドックスすぎる演出に対するものだったのでしょうか?
前述の隣の方が「よかったー、ヴォータンが背広とかでなくて(笑)」と。それ私も思ってました。変な演出もそろそろ飽きられてきて、オーソドックスに回帰してきているのかと思った次第です。
(出演)
ヴォータン:Michael Volle
ドンナー:Andre Schen
フロー:Siyabonga Maqungo
ローゲ:Norbert Ernst
ファゾルト:Jongmin Park
ファフナー:Ain Anger
アルベリヒ:Olafur Singurdarson
ミーメ:Wolfgang Ablinger-Sperrhacka
フリッカ:Okka von der Damerau
フライア:Olga Bezsmertna
エルダ:Chrisra Meyer
ヴォークリンデ:Andrea Carroll
ヴェルグンデ:Svetina Stoyanova
フロスヒルデ:Virginie Verrez
指揮:Simone Young
演出:David McVicar
◇座席
前から6列目の上手側
チケットはベルリン・フィルと同様のA4判プリント、手持ちスキャナーでピッと。
とっても高いチケットだったのですね、と今ごろ気づきました(汗)
◇劇場内
言わずと知れたスカラ座。壮麗なオペラハウス。
ピットは広いけれど、ベルリン国立歌劇場ほど深くはなく、指揮者の腕が客席からよく見えていました。
座席裏側の字幕タッチパネル