2023年3月26日(日)日本オペラプロジェクト2023「森は生きている」

14時開演 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

沼尻マエストロの芸術監督任期最後の公演は先週のマーラーではなく、びわ湖ホールの引っ越し公演「森は生きている」でありました。

びわ湖ホールでたびたび上演されているこのオペラ、子どももかつて子どもだった大人も楽しめる、と書いてありましたが、本当にその通り。

継母に虐げられている孤児の「むすめ」が最後には幸せになり、わがままな「女王」が改心するという、お伽噺の王道ストーリーふたつが組み合わさったハッピーエンドのあらすじ、魅力的なキャラクター、美しい舞台と衣裳、親しみやすい音楽、そして歌唱も演技も素晴らしく幸福感に満ちたオペラでした。

ロシア(ソ連)の作家マルシャーク原作の児童劇が和訳され、俳優座での初演時に林光氏が音楽をつけたのが始まりで、その後同氏によってピアノ版でオペラ化され、2001年にびわ湖ホールでの上演にあたりオーケストラ版がつくられたとのこと。びわ湖ホールが育ててきたオペラなのですね。

オーケストラといっても、弦楽器と木管楽器が各1名ずつにパーカッションとピアノが加わったごく小さい編成。中ホールのサイズにも合い、「つつましい贅沢」とでもいった感の響きはほっこりとするものでした。

楽日のこの日はダブルキャストの年長組、びわ湖ホール声楽アンサンブルのOB・OG主体のキャスティングで、歌唱はもちろん、皆さん演技巧者でもありました。

日本語のオペラを鑑賞すると、歌手の演技力の高さが明確にわかります。それになんといっても声がいい!セリフの声にも惚れてしまいます。加えて声楽家ならではの子音を立てる発音によりセリフが明確に聞き取れる。動物の鳴き真似やおどけたセリフ回しの直後に歌い出すところなど、喉を傷めるのではないかと少々気になりつつ、よく声が出るなぁと感嘆しました。

さらにキャスティングもぴったり。けなげで可愛い「むすめ」の熊谷綾乃さん、気品ある「女王」佐藤路子さんのお二人は声も佇まいもまさに適役。いじわるな継母の益田早織さんとその娘の森季子さんのお二人、アルト・ヴォイスの魅力に加えコミカルな悪役が巧い!カラスが清水徹太郎さんだったのは少々驚きでしたが(美声のカラス笑)、「古老・博士」の松森治さんの惚れ惚れする低音ヴォイス——松森さんは歌のみならず、声だけでもお仕事いっぱいありそうです——そして「1月・総理大臣」の平欣史さんの艶やかで堂々としたバリトン・ヴォイス!双眼鏡でガン見しました——と挙げていくとキリがないのですが、本当に皆さん素晴らしく、歌と音楽と舞台にどっぷり浸り、今この空間にいることの喜びをかみしめた至福の時間でした。

もう一度観たい、2日とも来ればよかった、前日のキャストでも聴きたかった、とも思い、今後びわ湖で公演があればまたぜひ行こうと思っています。

ところでしかし、我が家から車で約10分のホールに来ていただけたのは嬉しかったのですが、沼尻マエストロびわ湖最後のお仕事がなぜ兵庫県立芸術文化センターだったのでしょうか?不思議ではあります・・。

 

◇座席
2階前列の中央。左右両端の前方にせり出した部分は手すりで分断されたものの、遮るもののない特等席。どっぷり感を味わえるのはやはりど真ん中だと改めて認識。

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