2024年11月24日(日)サー・サイモン・ラトル指揮/バイエルン放送交響楽団 ピアノ チョ・ソンジン

17時開演 ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮者、オーケストラ、ソリスト、会場そして聴衆も含め、すべてが揃った、これより前にも後にもありえないほどの最上の演奏会でした。

ブルックナー9番とサイモン・ラトルとチョ・ソンジン。その演奏会が国内最高の音響と言われるミューザ川崎シンフォニーホールで行われる——この情報を知ったのはいつだったか忘れましたが、知った途端「これは絶対に行く!」と決めました。

チケット発売日が奇しくもチョ・ソンジン氏のリサイタル(魂を抜かれるほど素晴らしかった!)の日であったことはよく覚えています。

2週間前にも日帰りでサントリーホールに行きましたが、この日も同じく日帰りで。17時という微妙な開演時間でしたが、朝は自宅でゆっくりとでき、帰りも余裕をもって帰って来れてなかなかよかったです。

前半はベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。
チョ・ソンジン氏のピアノはやはり凛とした美しさ。闊達に鳴らしてもその美しさが保たれているのです。そこにマエストロが煽るヴァイオリンが実に生き生きと入ってきて——これこれ!これが聴きたかった!肉厚な弦の響き。弦10型の小編成でしたが、少ない弦で思い切り鳴らしてくれるので、こちらにも熱が伝わってきます。

マエストロとソンジン氏は、丁々発止のやり取りでありながら、驚くほどに息がぴったり。このタイミングのぴったりさは何なのでしょう。このツアーでは他にブラームス2番のプロもあり、合わせる時間は多くはなかったと思われますが、まさに天才同士の仕事です。

それにしても、ソンジン氏のピアノが素晴らしい。ちょうど1ヶ月前(もう1ヶ月経ってしまいました)、バレンボイム/ベルリン・フィル/アルゲリッチでベートーヴェンの1番を聴きましたが、アルゲリッチの、あのキュッと手の内に入った感じとはまた違って、透明な芯のある音色はやはり彼ならではのもの。特に2楽章終わりの単音で奏でられたソロが至高の美しさで——静まり返ったホールの中に研ぎ澄まされた一音一音が響いていく——この瞬間は今後も忘れられない光景となりそうです。

後半は大変楽しみにしていたブルックナー9番。
前半のコンチェルトでこのオーケストラの素晴らしさはわかったので、後半も大いに期待していたのですが、その期待を遥かに超える演奏でした。

オーケストラはぐっと増えて弦16型。対向配置ですが、1stヴァイオリンの横にヴィオラが来る並びとなっていました。ここのところよく見かける配置です。

とにかくよく鳴るオーケストラで、ゴージャスな音色。弦の艶やかな響きを伴って大音量で鳴るブルックナー。もう1楽章で何度も泣きそうになりました。これこそが望んでいた演奏なのだと——ちょっとこれ以上は言葉が見つからなくて、書き連ねられません——この音場にいられることの幸福をこんなに強く感じたことはこれまでにありませんでした。

このホールの音響は、美しい響きながら過度の残響がなく、オーケストラの出している音がそのまま伝わってくる印象で、強音も弱音も明瞭に聴こえ、理想的な響きだと感じました。ホールの形態上、奏者にもおそらく同じ感覚で聴こえているのだろうとも思い、「マエストロ最愛のホール」というのがよくわかりました。

マエストロ・ラトルのブルックナーは、ベルリン・フィルのアーカイブでいくつも視聴していますが、テンポが少し速いような印象を持っていて(超特急の6番など笑)、正直なところ、どんな演奏になるのかと少々疑念も持っていたのですが——そんなことなど忘れてしまい(実際に速すぎることなく心地よいテンポでした)、今ここで鳴っている音楽に没入。これほどの熱量で聴かせていただけると、もう感動以外なにもありません。

そして、特筆すべきは聴衆。この2,000人規模のホールで、これほどの静けさを保った演奏会を経験したのは初めてのことでした。マエストロが手を降ろした後も完全な静寂。完璧。

すべてが高次元で揃った演奏会。
一生に一度あるかないかの経験だったと思っています。

◇ソリストアンコール
ハイドン:ピアノソナタ53番第3楽章

◇座席
2階2列目中央ブロック下手側。前席ポツリと空席の僥倖、視界良し!
先日のサントリーはブルオタ男子が多くを占めていましたが、この日はピアノ女子も多かったようで、ほどよい混じり具合。私?ハイブリッドです(笑)

◇その他
開演前のカフェで、ベルリン・ミラノ旅行でご一緒した方にバッタリと(笑)。やっぱり?
終演後には先日サントリーホールでお会いできなかった方と待ち合わせをして品川で食事。感動を分かち合える相手がいる幸せ。

簡素でありつつ、金文字ゴージャスなプログラム。
願わくば、オケ奏者の名前を入れていて欲しかった。コンマス並みの熱量で演奏されていたヴィオラ首席の日本人は、湯浅江美子さん、と後日SNSで知りました。

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