2023年11月11日(土)トゥガン・ソヒエフ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ ラン・ラン

15時開演 フェスティバルホール

ウィーン・フィルの来日公演。
当然ながら、素晴らしい演奏会でした。

前半はラン・ラン氏をソリストに迎えたサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番。
このところピアニスト目当てで足を運ぶ演奏会が多いですが、ウィーン・フィルは別枠。前回2021年は見送り、昨年は来日がなかったので、今年は元から行くつもりでいたところ、ピアニストがラン・ラン氏で(チケットの金額にも説得力があり)一層意を強くしたのでした。

サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番は3楽章構成ではあるものの、20分少々と短め。先週のリスト2番もそうでしたが、世界的ピアニストを聴く機会は得たものの、ちょっと短いのが残念。しかし、その演奏技術は堪能できました。

超高速パッセージを弾くときも、強音を響かせるときも、フォーム、音の質が変わらないことに驚嘆。優れたオペラ歌手が、絶唱するときも弱音を歌うときも、ベル・カントの発声は変わらないのと同様に、軽く速く弾いても、重く大きく弾いても、その響きの丸い輪郭は保たれたまま。そして難しさをまったく感じさせない。すべては手の内に入っていて、今はそれを披露しています、といった余裕すら感じさせるのです。

そして、ピアノを弾き切った後の大きく腕を上げる動作。
「ラン・ランである!」といった王者の風格。そのショウマン然とした挙止に違和感を持つ人もいるようですが、やはり圧倒的な華、スター性があります。音楽は伝わって初めて成立するものであるだけに、技術力だけではなくアピール力も必要なのだと、そんなことも感じた演奏でした。

後半は、ドヴォルザークの交響曲第8番。
メジャー・オケの来日公演は、名曲プロが多く、攻めたプロが少ない、との不満をクラオタ周辺で聞きますが、先週のコンセルトヘボウ同様、よく知った作品の方がその美しい響きを堪能することに集中できてよいものだとも感じます(高額チケットゆえの集客を考慮し、安全志向になっているのかと推察されますが)。

ウィーン・フィルの弦の響きは極上の艶やかさ。先週のコンセルトヘボウのチェロ独奏と同様、コンマスによるヴァイオリン独奏の金色の糸のような繊細にうねる響きが、この楽団の特徴を表していると感じました。

そして、管楽器も圧倒的に上手い!
クラリネットのまろやかな響き、フルートの透明感、いずれも豊かな音量で明瞭に聴こえてくるたびに「うわぁ上手いなぁ‥当然か」の自問自答の繰り返し(笑)
極め付きは、4楽章冒頭のトランペットのファンファーレ。細く強くまっすぐに飛んでくる黄金色のビーム。思わず笑顔になってしまいました。

さてさてここで、今回の指揮者、トゥガン・ソヒエフ氏。
実は、今もっとも生でその演奏に触れたい、と思っていた指揮者でした。
当初予定の指揮者、ウェルザー=メスト氏が癌治療のため降板となったことを知った際に、「代演がソヒエフだったらいいな!」とひそかに希望していました。しかし現在世界でもっとも忙しい指揮者のひとり、と言われているので、無理だろうとも思っていたのですが——さすがウィーン・フィル!ありがとうございます!

その指揮は表情豊かで、音楽の持つ機微を明確に伝えてくれるものでした。体を大きく使い、フレーズをたっぷり歌わせているかと思えば、同時に左手でさりげなく音量調整や微妙なニュアンスの指示も出しているという高度なテクニック。あるいはテンポの指示はほとんど出さずに、音楽の方向性だけを示している部分もあって、指揮の神髄を見た思いがしました。

プログラムに楽団長のフロシャウアー氏の文章が載っており、そこには「近い将来最高の指揮者の一人になると信じており、ニューイヤー・コンサートの指揮者候補になり得ると確信しています」とありました。もう既に数年先のオファーが出されているのかもしれません。楽しみです。

映像で見るソヒエフ氏は基本笑顔で顔の表情も非常に豊か。今回は後姿しか見れませんでしたが、いつかはシンフォニーホールやサントリーホールのようにP席があるホールで(金管楽器は犠牲にしつつも)正面から鑑賞したいです。

ソヒエフ氏の指揮に応えるオーケストラの演奏は言うまでもなく最上の響き。特にワルツの3楽章、これはもうウィーン・フィルならではの美しさ。至福の時でした。

アンコール演奏後には早々に客電が灯されましたが、拍手は鳴りやまず。
ソヒエフ氏の一般参賀あり。

 

◇ソリスト・アンコール
リスト:愛の夢 第3番

◇オーケストラ・アンコール
ヨハン・シュトラウスⅡ世
ポルカ「雷鳴と電光」、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」

◇座席
2階最前列下手側。
11月11日、1列11番でした!

◇その他
美しい装丁のプログラム。
無料配布で満足度高。

ウェルザー=メスト氏の回復をお祈りしつつ、当初のチラシも載せておきます。

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