2024年8月31日(土)いずみホール・オペラ2024 佐藤正浩プロデュース「真珠とり」

14時開演 いずみホール

上演機会の少ないビゼーのオペラ「真珠とり」。素晴らしい公演でした。

キャストは4名で、森谷真理(巫女レイラ)、宮里直樹(若い漁師ナディール)、甲斐栄次郎(真珠とり漁師の頭領ズルガ)、妻屋秀和(祭司ヌーラバット)と、いずれも日本を代表するオペラ歌手の方々。合唱は神戸市混声合唱団という豪華な組み合わせで、大きな期待を持って出掛けましたが、期待をはるかに超える素晴らしさでした。

「演奏会形式」とされてはいたもののキャストは暗譜。ホールの設えを活かした演出がなされており、オルガン・バルコニーや合唱ひな壇での演唱もあったので、装置はなくとも情景を把握でき、男性キャストの衣裳が燕尾服であることを除けば、「セミ・ステージ形式」といっていい内容でした。合唱団も舞台後方ひな壇のほか、舞台袖、オルガン・バルコニー、と状況ごとに立ち位置を変え、これがさらに臨場感を増すものでした。場面に応じたパイプオルガンへの照明演出も効果的。これらにより、通常のオペラを観ているような感覚で楽しむことができました。

ビゼーといえば「カルメン」ですが、その12年前のわずか24歳で作曲したのがこの作品。四半世紀前生まれのヴェルディ、ワーグナーの影響も随所にありつつ、「ビゼーらしさ」も既に現れており、独唱、重唱、合唱、オーケストレーション、どれもが素晴らしく、カルメンに感じる天才性を更に確信させられました。

ストーリーは超ざっくりで「横恋慕男の嫉妬による復讐未遂後自滅」(ズルガごめん)。台本にはやや疑問がありましたが——「俺は嫉妬しているんだ!」と本人が歌うのはヘンだし、そもそも死ぬほどの話でもなかろうに——しかし「オペラあるある」で、音楽がよいので、もっと上演されてよい作品だと思いました。

第一幕から聴きどころ満載。まず、ズルガ甲斐栄次郎さんの深く通りのよいバリトンが素晴らしい。年齢相応の風格があり、頭領の役がぴったりときます。久方ぶりに再会した親友であり恋敵のナディールとズルガの二重唱。ヴェルディ「ドン・カルロ」の二重唱を彷彿とさせますが、これがメロディアスかつ力強くて大いに聴き応えあり。また、この旋律がライトモティーフのように終盤まで用いられていたのも印象的でした。

そしてなんといっても第一幕幕切れ前のナディールのロマンス「耳に残るは君の歌声」。「真珠とりのタンゴ」としても有名なこの哀愁を帯びたメロディを、美しい宮里さんの声で聴けたのは幸せでした——余談ですが、「真珠とりのタンゴ」は、子どもの頃持っていたオルゴールの宝石箱(蓋を開けると音楽が鳴る)の曲。これがビゼーのオペラだと知ったのはかなり後になってからのことですが、ちょっとした思い入れがありました。

第二幕の始まりは、「カルメン」や「アルルの女」によく似た美しいフルートのソロ。この頃から既にビゼーの様式は確立していたのですね。オーケストレーションにはワーグナーの影響も多く感じたのですが、なかでも弦楽器による持続的な波の描写音形が、このオペラの舞台は海辺であることを心地よく認識できる仕掛けともなっており、このあたりにもビゼーの才能を感じました。

さて、この第二幕の大きなハイライト、森谷真理さんの歌うレイラのカヴァティーナ。高音の安定感といい、コロラトゥーラの技術といい、これを歌いこなせるのは森谷さんならではの素晴らしい歌唱。客席からは「ブラヴィッシーモ!」の掛け声(ややうるさい笑)。

そしてなんと言っても、幕切れの合唱の大迫力。舞台を取り囲むようにオルガン・バルコニーに並んだ合唱、その中心、舞台後方のひな壇の中央に仁王立ちの祭司ヌーラバット妻屋さんのなんとサマになること!

「アイーダ」の「凱旋」や「トスカ」の「テ・デウム」などに匹敵する感動の大合唱。S8、A7、T8、B5という編成で、決して大人数ではないのに、さすがはプロ集団。響きの美しさも声量も素晴らしいものでした。

第三幕のレイラとズルガ、レイラとナディールのそれぞれの二重唱も美声を堪能できるもので、最後まで聴きどころ満載。幕切れの燃え盛る炎はパイプオルガンの赤い照明で表現されており、これも印象に残るものでした。

1幕45分、2幕40分、3幕35分、と短めなのも良し。オペラを構成する要素がすべて高水準で揃ったこの作品、定番オペラとなってもよいクオリティ。びわ湖ホールか芸文センターでやっていただけないかなぁ、と願っています。

◇座席
T列上手側。前列がずらりと空いていたので視界良好。オケもよく見え、字幕も大きくて見やすく快適な鑑賞でした。

◇その他
進路不確定ノロノロ台風10号により開催が危ぶまれる状況でしたが、前日13時に開催が決定。早々に諦めてくれなくて感謝!
この豪華キャストの予定を合わせることを考えると再演は難しいかと思っていたので、本当によかったです。

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