2022年3月6日(日)びわ湖ホール プロデュースオペラ「パルジファル」

13時開演 びわ湖ホール 大ホール

今年の「びわロイト」の演目は、ワーグナー最後の作品「パルジファル」。

ここ何年かのびわ湖ワーグナーはゲネプロと本番2回の計3回鑑賞していますが、今年はゲネプロが月曜日、木・日曜日が本番という日程で、さすがに月・木と休むわけにもいかず(合唱の本番で金曜日に半休を取ったのもあり)、残念ながらゲネプロと本番1回の計2回のみにとどまりました。

今回も昨年の「ローエングリン」同様、セミ・ステージ形式での上演。
舞台前面にキャスト、その後ろにマエストロとオーケストラ、さらにその後ろに合唱団、という配置。キャスト用に白い椅子が左右4脚ずつ置いてあり、場に応じてそれぞれの椅子に座る、という使い方がされていました。

舞台後方に設置されたスクリーンと合唱ひな壇を斜めに分断する白い階段とで構成されたシンプルな舞台はスタイリッシュな印象。バナー状のスクリーンで強調された縦の線とその中央に右肩あがりに差し込まれた階段とで神殿を表しているのでしょうか。スクリーンには、林の情景や聖杯を思わせる抽象的な映像などのほか、聖槍がパルジファルの頭上で止まるシーンも映し出され、物語進行の補助的な役目を果たしていました。

長老騎士グルネマンツの「語り」によって物語が構成されている部分が多く、動きの要素も少なめなので、この形式でも十分と思いましたし、音楽の濃さが圧倒的なこの作品は、オーケストラの響き、音量を楽しむためにもこちらの方が良かったと感じました。

そして、今回もまた日本で最高レベルの豪華なキャスティング。
題名役のパルジファルはテノールですが、脇を固めるグルネマンツとティトレル王はバス、アムフォルタス王と悪役クリングゾルはバリトンでまさに「低音の魅力」。この楽劇は低音が楽しめる作品でもあります。
グルネマンツの斉木さん、とにかく長ゼリフの膨大なテキスト。底鳴りのするような威厳のある低音は最後まで保たれ、その労いもあってかカーテンコールでの喝采もキャスト中最大でありました。

同じバスでもティトレル王の妻屋さんは滔々と流れる大河を思わせるような響きで安定感抜群。そしてアムフォルタス王は青山さん!青山さんの声には涙腺スイッチ要素が含まれているようで、聴いただけで涙出そうになります(パブロフ犬?笑)。妻屋さんと青山さんの親子対話のシーン・・このお二人を同時に聴けて最高に幸せでした。

パルジファル福井さんのいつも通りの輝かしく劇的な歌唱は言うまでもなく、クンドリ田崎尚美さんも素晴らしかった。このクンドリという多面的な女性、ワーグナー作品のあらゆる女性の要素が入り込んでいる複雑な役柄でーーその場面によって、ヴェーヌス、エルダ、ブリュンヒルデ、オルトルートなどが浮かびますーー突然叫んだり、唸ったりしたあとに歌い出すシーンもあり、歌唱も含め難役だと思われますが、歌唱も表現力もその存在感にも圧倒されました。ルックスも体格も日本人離れした貴重な存在、本格的なワーグナー歌手ですね。

合唱は今回衣装と合わせた黒いマスクをつけての歌唱。しかし、人数も多く、マスクの存在を感じることのない迫力でした。去年のローエングリンで感じた物足りなさは全くなく、素晴らしかったです。

ところで、今回は岡田安樹浩さんの上級編講座に行けず(気づいた時にはチケット予定枚数終了)、音楽の予習があまりできないままゲネプロ見学に行ったのですが・・大丈夫でした(笑)。このパルジファルには40ものライトモティーフがあるそうですが、片手くらいでも十分楽しめます。

冒頭いきなり出てくる悲痛な「愛餐の動機」、何度も繰り返される「ドレスデン・アーメン」を含む「信仰の動機」、それから「聖杯の動機」。上昇形のこの3つ動機とは対照的に転げ落ちるような音形の「クンドリの動機」。そしてすぐにそれとわかる「パルジファルの動機」。

これらの代表的なライトモティーフと並んで、いやそれ以上に今回刷り込まれたのが、1幕の中盤以降に現れる「鐘の動機」。ドーソーラーミという単純な音形なのですが、この鐘の音がとても特殊な音だったのです。舞台裏で演奏されPAで響かせていたようですが、バリ島で聴いた「ガムラン音楽」みたいだな、と夫と話していましたが、当たり!でした。これガムラン・ゴングですよね。(ホール公式Twitterから拝借)

これは沼尻マエストロが自ら選ばれたとのことでーー今どきでは西洋音楽の音程に合うようにつくられているのかもしれませんが、決めるまでにいったいいくつのゴングを叩きまくったのだろう?などと想像してしまいます(笑)ーーなにか「異界」を感じさせるこの響き、効果は非常に大きかったと思います。それにしても、「ジークフリート」の「鍛冶の動機」同様、私は「叩きモノ」にやられる傾向が強いようです(笑)

この作品は、キャッチーな序曲や前奏曲があるわけでもなく、どちらかというと地味な印象がありますが、舞台上のオーケストラから直に響いてくるワーグナーの音楽はやはり圧倒的で、これ以上ないくらいの音楽体験でした。ピットからではなく、舞台上での演奏で聴けてよかった、としみじみ思いました。

1幕105分、2幕70分、3幕80分。毎度のことですが、全く長く感じませんでした。

この長さを振り続け、3幕終盤もの凄いエネルギーで頂点を築き上げたマエストロは素晴らしい!しかもこれだけの大仕事を終えられにもかかわらず、カーテンコールでは淡々とした佇まい。隣の歌手とうっかり手を繋ぎそうになって慌てて引っ込め笑っておられたりして、いつものマエストロでした。

ところで余談ですが、先日のハイドン「十字架上の最後の七つの言葉」でドイツ語を勉強したおかげで、字幕の日本語を見るとドイツ語で何と言っているのか、かなりの部分でわかりました。「キリスト磔刑」という共通点があり、覚えた単語がいくつかあったからではありましたが、思わぬ副産物。熱の醒めぬうちに、もう少しドイツ語の勉強をしようかな、と考えています。

それにしてもゲネプロ見学から始まったこの1週間。びわ湖ワーグナーと合唱登壇という年間最大級の音楽イベントが同じ週に行われ、その間に大フィル定期も挟まっていたという「盆と正月が一緒に来た」以上の濃い1週間でしたが、なんとか乗り切りました(笑)。

◇座席
1階M列下手通路側。オケが舞台に載っているのでここ辺りがベストですね。
(ピットの場合は上から覗き込みたい:これが2回鑑賞する理由のひとつです)

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