2023年3月5日(日)びわ湖ホールプロデュースオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

13時開演 びわ湖ホール

ワーグナー10作品完遂。
沼尻マエストロの芸術監督最後のプロデュースオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が終わってしまいました。

盛り上がり最高潮での幕切れは文字通り大団円。最後に採り上げた作品が、ハッピーエンドのこの楽劇で本当によかったです。

上演時間はカーテンコールを含めて6時間。
1幕85分、2幕65分、3幕120分という実に長丁場ではありましたが、まったく長さを感じませんでした。終わって欲しくないというこちらの気持ちもあって、3幕などは最も短く感じたほどです。

今回も「セミ・ステージ形式」で、舞台前面にキャスト、その後ろにマエストロとオーケストラ、さらにその後ろに合唱という配置。キャストのゾーンに置かれた椅子や衝立、お立ち台などが場に応じて動かされ、後部の全面スクリーンとバナー状に吊り下げられた7か所のスクリーンに情景が映し出されるといった、最小限かつ効果的な舞台構成となっていました。

キャストは簡易な扮装。合唱は男声礼服、女声は白ブラウスに下は黒スラックス、スカートという合唱団スタイルの衣裳で、マスクあり。

今回もキャスティングが素晴らしく、日本を代表する男性オペラ歌手がズラリと並んで壮観。しかも私の好きな歌手の方ばかりで、これが長さを感じなかった大きな要因のひとつです。声が聴けているだけで幸せ!という感じですね。

これまでびわ湖ワーグナーで主要な役をつとめてきた青山貴さん。その集大成ともいえる今回のハンス・ザックス役。私の大好きなふくよかな低音は始終安定感があり、素晴らしかった!ただ、ヴォータンのような本格的メイクと衣裳ではないため、役柄よりも若く見えてしまうのが少々残念で——やっぱり衣裳とメイクはフルオペラのレベルにしてほしかったところですが、照明の角度によるものなのか、私の席からは青山さんの白眼がしばしばキラリと光って見え、真摯な人物としての奥行きを感じさせて印象的でした。

ポーグナー妻屋さんはさすがの存在感と声量。ベックメッサーの黒田さん、「セビリアの理髪師」に続くコミカルな悪役に演技力の高さを感じました。短髪の頭と丸メガネとコミカルな演技で晴雅彦さんに見えてしまったり・・。京響の松村さんが今回のために購入した「ベックメッサー・ハープ」の大正琴のようなやや珍妙?な音色は耳に残るものでした。今も黒田さんの歌声とともに脳内でリフレインしています。

そして、大西宇宙さん。力強いバリトン!マイスターの中では最も若い(名簿の末に位置する)けれど、お立ち台の上で仕切りまくっているのがとってもサマになります。パン屋に留めておくには惜しい人材(笑)

——脱線しますが、客席に向かって横並びに椅子に座るマイスター12人の並びは、下手側にバリトンとバス、上手側にテノール(ベックメッサーとザックスは下手側)。大西さん、近藤圭さん、友清崇さんの座る下手側はイケメン系。対して上手側のチャールズ・キムさん、高橋淳さん、チン.・ソンウォンさんのテノール3人組はいずれも丸顔メガネぽっちゃり系。高橋さんの両隣のお二人を巻き込んでの小芝居も楽しめました。

「主役級の歌手を並べなければならない」キャスティングにも苦労した、とのことでしたが、主要なマイスター以外はさほどに見せ場、聴かせどころがなく、勿体ない気もしました。
そんな中、出番が2回だけの「夜警」平野和さんは正に「儲け役」。恐がり?な様子のコミカルな怪演と響きわたる低音で場を攫っていました。

清水徹太郎さんもいつもの透き通ったまっすぐな高音、若々しいテノールは役柄にぴったり。徒弟とはいえダフィトは物語を動かしていく重要な役。出番が多く、私としてはとても嬉しかったです。豊かで艶やかなメゾ、マグダレーネ八木寿子さんとのカップルも相性がよく、お二人とも関西勢なのも嬉しかったです。3幕のヴァルター&エファ、ダフィト&マグダレーネにザックスが加わる五重唱は、それぞれの声の個性が際立ち非常に魅力的。この上演中もっとも美しい場面のひとつでした。

エファの森谷真理さんは気品があり、完璧な歌唱。なのですが、ややスモーキーな声質なのもあり、結婚前の愛らしい娘という雰囲気ではなく、私の抱くエファのイメージとはやや乖離。声域は別として、この方の佇まいはメゾの役の方が合っているのでは?といつも思ってしまいます。ワーグナーだと指環のフリッカなんかが似合いそうです。

騎士ヴァルター福井敬さんはカツラの扮装で、ゲネプロで初めて拝見したときは誰かわからず、「この美しいテノールヴォイスは誰?」と思ってしまいました。私が鑑賞しなかった初日の公演では、本調子でなかったようで、終盤歌詞が落ちる事故もあったらしく、それを受けてかこの日のカーテンコールでもブーイングがありドキリとしました。楽日のこの日はいつもの素晴らしい歌唱だったのですが・・。

ところで余談ですが、3年前に私も参加したクラウド・ファンディングでオーケストラ演奏での福井さんのアリア集CDが制作されました。そのタイトルがこの楽劇のアリア「朝は薔薇色の光に輝き」。収録はびわ湖ホールでした。そのびわ湖ホールのワーグナー10作品上演完遂時に福井さんご自身でこのアリアが聴ける。パズルの最後のピースがピタリと嵌った感じがします——最後のピース・・と思うと切ないですね。

さて、オーケストラの演奏ですが——冒頭の前奏曲、ゲネプロで聴いた際には、あまりにもマイルドなサウンドに驚きました。私がいつも聴いているCD(オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団)では、金管が華々しく鳴っているので、そのイメージで期待していたのかもしれませんが、この演奏では、金管類の音量を意図的に下げているようにも聴こえました。弦楽器が金管を覆っている感じ。この柔らかな響きの傾向は楽劇の間中ずっとそうであったと思います。なんといっても長丁場なので、大音量と対峙する歌手の負担を考慮したものだったのでしょうか。

しかし、幕切れでは金管も華々しく咆哮し、前奏曲と同じ音楽が合唱を伴って大音量でホールに響き渡ったときの迫力といったら!これぞワーグナー!これほどの祝祭感、高揚感は人生でそう何度も味わえない、大感動の瞬間でした。

あぁ素晴らしい~!でも終わってしまう~!
終わってしまったのは悲しいけれど、でも幸福感でいっぱいになりました。
W10完遂がこの作品で本当に良かった。
規模が大きく上演が難しいので最後に残ってしまったのが本当のところなのでしょうが、この祝祭シーンで終わるのは出来過ぎでは?とも思ってしまいました。

長く長く続いたカーテンコール、今年はやっと手を繋いで行われました。
マエストロには「やりきったぞ!」的オーラは全くなく(いつもそうですが笑)、しかも今回は少しお疲れだったご様子。85分+75分+120分。2時間腕を上げっぱなし、というのはどういう感覚なのでしょう?想像もつきません。しかし最後まで弛むことのない指揮姿を惚れ惚れと見させていただきました。

◇座席
通路後ろから2列目(前ブロックは売り止めで、実質2列目)、下手側。
チケット発売日は旅行中。山道ドライブでスマホが繋がりにくく意中の席が確保できず。前過ぎてオケの全貌が見えずやや不本意でしたが、歌手はしっかりと見えました。
ちなみに同じ列は全て女性。ワーグナーはオジサンだけのものではありません(笑)

◇付録(自家製キャスト一覧)
「マイスタージンガー」とは「職匠歌手」なので、役柄にはそれぞれ職業があり、今回は予習でキャストの職業も憶えて臨みました。が、これは殆ど話に関係がなく無駄な努力(笑)。それが証拠にプログラムには主なキャスト以外は役名が記載されているのみでした。でもせっかく調べて憶えたので、全キャストを職業を添えてここに記しておきたいと思います。

ハンス・ザックス(靴職人の親方)
:青山貴(バリトン)
ファイト・ポーグナー(金細工師)
:妻屋秀和(バス)
クンツ・フォーゲルゲザング(毛皮職人)
:村上公太(テノール)
コンラート・ナハティガル(ブリキ職人)
:近藤圭(バリトン)
ジクストゥス・ベックメッサー(市書記)
:黒田博(バリトン)
フリッツ・コートナー(パン職人)
:大西宇宙(バリトン)
バルタザール・ツォルン(錫職人)
:チャールズ・キム(テノール)
ウルリヒ・アイスリンガー(香料屋)
:チン・ソンウォン(テノール)
アウグスティン・モーザー(仕立屋)
:高橋淳(テノール)
ヘルマン・オルテル(石鹸屋)
:友清崇(バリトン)
ハンス・シュバルツ(靴下屋)
:松森治(バス)
ハンス・フォルツ(銅職人)
:斉木健詞(バリトン)
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(騎士)
:福井敬(テノール)
ダフィト(靴職人徒弟)
:清水徹太郎(テノール)
エファ(ポーグナーの娘)
:森谷真理(ソプラノ)
マグダレーネ(エファの乳母)
:八木寿子(メゾソプラノ)
夜警(名前なし)
:平野和(バリトン)

※この長文にお付き合いいただいた方、ありがとうございました。
備忘録として、憶えていることを書き出すと長くなってしまい(オペラ自体も長いけど)、自分で読んでもややウンザリです(笑)

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