19時開演 フェスティバルホール
秋山マエストロが指揮される予定であった今月の大フィル定期。
アメリカ出身のマエストロ、ジェームズ・フェデック氏の指揮によりプログラム変更なしで開催されました。
ロシアの作曲家による、演奏機会の少ない作品でのプログラム。前半は、シチェドリン(1932年生まれで現在92歳)が妻のバレリーナ、マイヤ・プリセツカヤのために編曲した「カルメン組曲」。カルメンだけでなく、「アルルの女」、「美しきパースの娘」からの楽曲も含まれた、ビゼーの「いいとこ取り」で、弦楽器とパーカッションのみ、という珍しい編成での作品。
チューブラー・ベルが「ハバネロ」を奏でるところから始まり——チューブラー・ベルがメロディを奏でるのを聴くのは、「のど自慢」以外で初めてのような(笑)——フィナーレも全く同じ演奏で終わるのですが、随分と個性的で印象に残るものでした。パーカッションが47種類も使われており、打楽器奏者が忙しそうに立ちまわるのも見どころ。「闘牛士の歌」では、なぜかサビの ”Toréador, en garde!” のメロディが演奏されず、刻みの伴奏のみとなる面白い趣向。聴き手各人で余白を埋めろ、ということでしょうか。
と、これらのキャッチーなメロディを聴きながら、オペラのカルメンが観たいなぁ、などと考えていました(できればオーソドックスな演出で)。
後半は、ラフマニノフとスクリャービン、モスクワ音楽院同級生の作品。両者ともピアニストであり、ピアノ曲が有名ですが、オーケストラ作品を並べてあるところが何とも素敵。これぞ定期のプログラム、「通好み」の選曲です。
ラフマニノフの幻想曲「岩」。
「断崖」の方が意味が近いらしいですが、しかしもっと文学的なよいネーミングがなかったのでしょうか(聴く気になりにくい少々残念なタイトル)。チェーホフの詩から着想を得たものとのこと。「岩」は不幸な境遇を持つ中年男性がそのように見えた、とのところから。ちょっとした恋愛感情も含まれているようです。
スクリャービンの「法悦の詩」は「交響曲第4番」とされていますが、単一楽章で20分強、交響詩といっていい作品。「法悦」とは宗教的なものなのでしょうが、何となく「トリスタンとイゾルデ」を連想する官能性を感じました。大編成のオーケストラ、パーカッション類も多く使用され、多彩で輝かしい私の大好きな種類の音楽。起伏を繰り返しながら頂点に達し、そこで一度収束し、再び大きく盛り上がっての結び。トランペットの細く強い響きが大変に美しく印象的でした。
今回のマエストロ、フェデック氏。40歳前後に見えましたが、ブルックナーに定評があるとのことで、大らかで泰然とした指揮。こまごまとパートごとに注力した指示を出すのではなく、全体的にたっぷり歌わせる感じで、特に後半では大編成のオーケストラが気持ちよく鳴っている、と感じました。大フィルとの相性もよさそうに思えましたが——再招聘の機会があれば、次はぜひブルックナーを聴きたいです。
◇座席
2階6列目中央ブロック上手側。
斜め前の男性客が、前半は「大船漕ぎ」、後半は始終首をボリボリと掻いていて大いに目障り。やや席ガチャ外れ。
◇その他
当初のチラシ
今でもまだ訃報を受け入れ難く‥