2025年9月16日(火) 阪哲朗指揮/紀尾井ホール室内管弦楽団第144回定期演奏会 大阪公演

19時開演 いずみホール

8月は「コン活」休止状態でしたが、9月からは通常営業(以上?)。再び毎週コンサートの生活に戻りました。

この日は、東京の紀尾井ホール室内管弦楽団の演奏会。
2週間くらい前に知ってチケットを購入しました。

プログラムは、前半にヴェーバー(”ウェーバー”ではなく)の歌劇「オベロン」序曲とコルンゴルト「左手のためのピアノ協奏曲」、後半はメンデルスゾーンの劇附随音楽「夏の夜の夢」というなかなかに豪華なもの。

「オベロン」と「夏の夜の夢」は関連性があるけれど、コルンゴルトの協奏曲はその2曲からはやや離れた印象でしたが、この選曲はピアノ独奏の阪田知樹さんによるものだったとのこと。ハイ、この演奏会の目当てはもちろん阪田さんでした(笑)。

このオーケストラは、1995年に紀尾井ホールが開館した際に発足し、国内外の第一線で活躍する奏者で構成されているとのこと。序曲が始まると、その音色の美しさに魅せられましたが、なかでも独奏ホルンの豊かで煌びやかな響きが素晴らしく、後でプログラムを見たところ、読響首席の日橋さんで、なるほど!と思った次第です。

さて、コルンゴルトの左手の協奏曲。「左手の協奏曲」は、ラヴェルが有名ですが、その依頼主は同じ人物で、オーストリアのピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタイン。第一次世界大戦で右腕を失ったため、当時活躍していた何人かの作曲家に左手の協奏曲を委嘱したそうです。ヴィトゲンシュタイン家は鉄鋼業で財を成した名家で、その富を芸術に注ぎ、自宅サロンには、マーラーやR.シュトラウスなども出入りしていたとのこと。

そのような名家の子息が重傷を負うような戦線に立っていた状況についても知りたいところですが——これらの委嘱作品は、現在でも何らかの理由で右手で演奏できなくなったピアニストのレパートリーとなっているほか、この日のように両手で弾けるピアニストにも演奏されており、今ではクラシック音楽の遺産のひとつとなっているのは、意義深いものがあります。

この日は、たまにはピアニストの手元を上から見るのもよいかも?と思い、下手側バルコニー席を購入。視界が手摺の横棒に(バッチリと)遮られる席だったのですが、誰の迷惑にもならないので身を乗り出して鑑賞しました。端っこの席にポツンと座り、双眼鏡でガン見する姿ははオタクそのものであったと思いますが、いろいろと収穫もありました。以降「見た」感想です。

楽譜を置いての演奏だったのですが、その楽譜はオーケストラ・パートをピアノ譜にした総譜。ピアノ独奏は左手だけですが、もちろん高音部も使うので、通常のト音記号・ヘ音記号の2段組。譜めくりは空いている右手で(便利!)と思いきや、ポジションによっては左手でめくったりも。右手でめくったあとの手の返し動作も美しい。

「鍵盤の端から端まで使い切り」とプログラム解説にありましたが、それは誇大表現で、高音部はC6くらいまで。楽譜で 「8⁻⁻⁻」 マークが付くような高音部は使われていませんでした。やはり左手で掴める範囲で書かれているのでしょう。

それにしても、左手だけでこれほど弾けるとは!それと知らず、音源だけを聴いていれば、普通に両手で弾いていると思ってしまう複雑さ。和音の重厚感がないのは仕方ないのですが、それを補って余りあるのが、オーケストラ・パート。コルンゴルト作品に共通する、キラキラとまばゆいサウンド。どの楽器のどのような音域の重ね合わせであのような響きが生まれるのでしょうか。R.シュトラウスよりも更に進んだ、洗練された音楽。それまでのロマン派音楽の上澄みを掬い取った、黄金色の「コンソメスープ」のようだと思ったり。その美しさがやがて映画音楽に発展していったのも納得です。

——協奏曲に文字数かなり使ってしまいました。その割には音楽が書けてませんが。ガン見ばかりしていると、得てしてこのようなことになります‥。

後半の「夏の夜の夢」。
以前、芸文センターのオペラで、ブリテンの「夏の夜の夢」を上演した際のプレ・イベントとして、このメンデルスゾーン作品の演奏会があり(檀ふみさんの演技付きナレーションも入った楽しいものでした)、それなりに長い演奏時間だったと記憶していたのですが、この日は抜粋版での演奏。

独唱は三宅理恵さんと山下裕賀さん。このお二人の独唱も目当てのひとつで、いずれも素晴らしいものでした。大阪すみよし少年少女合唱団の歌う清明な妖精の合唱に、三宅さんの美しいクリスタル・ヴォイスが突き抜けて聴こえてくる、この快感。山下さんの充実したアルト・ヴォイスも聴き応えあるものでした(出番がとても短かったのが残念)。

「室内管弦楽団」ではあるものの、三管編成の作品もあり、ピアノあり、声楽あり、のとても贅沢でかつレベルの高い演奏を聴かせていただき、大満足の一夜でした。

◇ソリスト・アンコール
メンデルスゾーン:無言歌集 作品67-4「紡ぎ歌」
後半プログラムへの橋渡しとなる選曲のセンス。それ以上に演奏が見事で歎息でした。英気十分?の右手で奏でる細やかな粒立ちの美しさ!

◇オーケストラ・アンコール
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲。阪マエストロの十八番。これは大サービス!

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