2023年10月31日(火)セミヨン・ビシュコフ指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ藤田真央

19時開演 サントリーホール

大好きなドヴォルザークのピアノ協奏曲を藤田真央さんが演奏する、しかもチェコフィルで!ということで、東京の平日夜にもかかわらず聴きに行ってきました。

音楽監督・首席指揮者のセミヨン・ビシュコフ氏が率いる今回のチェコ・フィルの来日公演は、オール・ドヴォルザーク・プロ。たまらないですね。こういうのが聴きたい訳です。

そして、滅多に演奏されないピアノ協奏曲。
2年前の大フィル「ドヴォルザーク・チクルス」の際に予習の段階で好きになり、本番の北村朋幹さんの演奏を「もう2度と聴けない一期一会」の気持ちで聴きました。ところがしかし今回のこの公演。情報を知ってしまった夜はアドレナリン急上昇で眠れず(笑)。発売日までほんのちょっと逡巡しましたが、東京で平日夜だけど行ってしまえ!とチケットを購入してしまったのでした。

このピアノ協奏曲には、ドヴォルザークが書いたままの「原典版」と、チェコのピアニスト クルツがピアノ独奏がより映えるようにと改訂した「クルツ版」があり、さらにフィルクスニーはその両方を基にした独自の版を弾いていたとのこと。この公演では「原典版」との事前情報でしたが、当日に「クルツ版」で演奏する、との案内がありました。

私がこの作品で特に好きなのが、1楽章の中盤に出てくる長調の箇所。オーケストラの奏でる伸びやかな旋律にピアノがきらきらポロポロと乗ってくるのが、ボヘミアのなだらかな草原を走り抜け、やがて空に舞い上がっていく一陣の風、そして光を思わせ、その情感で胸がいっぱいになるのです。

しかし、原典版(クライバー指揮/リヒテルpf)に慣れた耳で聴くと、このクルツ版による演奏はヴィルトゥオジティで、ピアノの音数がものすごく多い。これまで真央さんの演奏はかなり聴いてきましたが、その音数だけでなく、音量という面でもこれまでで最も迫力を感じるものでした。なので、期待していた「きらきらポロポロ」の印象よりも、「やはりここまで弾けるピアニストなのだ」という、その力量を見せつけられた思いの方が強く、心にずっしりと響いてくるものでした。

そして、いつもながらの超高解像度で和音の全ての音が明瞭に聴こえてくるので、情報量がものすごく多い。意外な和声を発見することも多々あり、これは一度聴いただけでは把握できない。この演奏、CDなどで発売してもらえないかと願っています。

オーケストラとの息もぴったりで、特に寸分たがわぬタイミングでピシッと揃った1楽章終わりは快哉!先に行われた韓国での2公演も大成功だったとのことで、マエストロ、オーケストラとの信頼関係もより緊密になっていたのかと思います。演奏後のマエストロとの熱い抱擁にこちらも胸が熱くなりました。

ピアノに「ずっしり」の印象を持ったのは、やはりチェコ・フィルの響きも関わっており、後半の交響曲第7番ではさらにそれを濃厚に感じました。そしてそれとともに感じたのが、独特のリズム感。舞曲が元になっているのは3楽章のスケルツォなのですが、それ以外の楽章にも踊りのリズムが感じられるのです。マエストロのくるん、くるん、としたタクト捌きに目が翻弄されたせいかもしれませんが(笑)、チェコの民族衣装のフレアスカートがくるくる回っている景色が始終脳裏に浮かんでいました。民族の持つリズム感はこれなのだろうと感じた演奏でした。

実は前半のピアノ協奏曲よりも、よりドヴォルザークらしさを感じるこの交響曲の方が印象に強く残ってしまったのですが(真央ラーとしたことが‥)、それはやはりチェコ・フィルならではの響きとリズム感に圧倒されたからなのだと思っています。

チェコ・フィルは弦のオーケストラ、と言われるようですが、この日私が特徴を感じたのは木管楽器。オーボエ、クラリネット、ファゴット、そしてフルートまでもが、光沢を感じさせない朴訥とした響きなのです。なにか薄い膜を纏っているような——頭に浮かんだのは渋皮のついた栗だったのですが(先ごろ栗ごはんを作るのに格闘したので笑)——でもその派手さのない音色が独特の色合い、風合いを醸しているのです。

時代の必須でオーケストラもグローバル化が進み、今日もベルリン・フィルのホルン首席に中国人のユン・ゼン氏が迎えられたとのニュースが入ってきたところですが——でも、チェコフィルはこのままでいて欲しい。リズム感や言語を共有した奏者が集まったオーケストラ、その地方色豊かな音楽を伝え続けて欲しい、と強く感じた公演でした。

ちなみに、殆どチェコ人であろうと思ったのは、プログラムに載っている奏者の名前がチェコ語特有の補助記号がついているものが多かったからなのです。”Dvořák” 姓の方も何名かおられます。

 

◇ソリスト・アンコール
プーランク:15の即興曲集より第12番「シューベルトを讃えて」
この演奏を聴くオケ奏者の方々の表情!(”みんな大好き藤田真央”)

◇オーケストラ・アンコール
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番
おっと、そう来ましたか!の感。でも今年1月に聴いたコバケン/ハンガリー・フィルの方が濃かったです(笑)

◇座席
1階下手側17列目通路から2席目。都響の時とほぼ同じ位置。
この辺りで聴くサントリーホールの響きはやや減衰気味。京都コンサートホールに似た感じです(音響設計者は同じ)。以前は天井から降り注ぐような印象を持っていたのですが‥

◇その他
この日は本社とのWeb会議に重なったので、リアル出席し出張に仕立て上げ。翌日は本社でテレワーク。会社に感謝、かつ良い時代になったと実感(出張自体も実りあるものでした)。

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