2025年10月16日(木) モーツァルト ピアノ協奏曲の旅〈ウィーン編〉Vol.2下野竜也指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 ピアノ 務川慧悟

19時開演 いずみホール

2年前の10月4日、井上道義マエストロ、ピアノ阪田知樹さんでVol.1が開催された大フィルのシリーズ、2回目の公演。

今回は、下野竜也マエストロ、ピアノは務川慧悟さん。務川さんと阪田さんは東京藝大の同級生。2人揃って私の推しピアニストであるのは皆さまご存じの通りです(笑)。

というわけで、務川さん目当てではあったものの、コンサート全体としても非常に魅力的な公演でした。

前半はディヴェルティメント K.138 と交響曲第25番 ト短調、後半はディヴェルティメント K.137 とピアノ協奏曲第20番 ニ短調というプログラム。短調の作品をメインにしつつ、それぞれその前段に長調のディヴェルティメントと置く、という構成です。

オーケストラは弦10型の「小フィル」。このホールでモーツァルトを聴くにはちょうど良いスケール感です。弦楽器のみでのディヴェルティメントは艶やかさが際立つ美しさ。

続く交響曲の前に、弦楽器の椅子が後ろに移動され、指揮台を囲むように4脚の椅子と背もたれのない椅子が2脚準備され、不思議に思って眺めていたところ、この4脚にはオーボエ奏者、ファゴット奏者それぞれ2名が座りました。見たことがない配置ですが、これが音量バランスとともに、作品の魅力を引き出す仕掛けとなっていました。

第1楽章のオーボエ、客演の榎かぐやさん(パシフィックフィルハーモニア東京)のソロの豊かな音量と明るい音色には目を見張りました。まるでオーボエ協奏曲を聴いているかのよう。通常のオーボエの位置では聴けない響きでこれは収穫でした。

また、第3楽章メヌエットのトリオでのオーボエ、ファゴット、ホルンの管楽器アンサンブルも、オケ後ろに配置のホルンと前面の木管との音量バランスがよく、下野マエストロのセンスの良さを感じました。何を聴かせようとしているのか、即ち演奏のコンセプト、が明確にわかる演奏は嬉しいものです。

さて、お目当ての務川さん独奏のピアノ協奏曲第20番。実は務川さん、この作品は初出しであったとのこと。もちろんそんなことは関係なく(あるかもしれませんが)、素晴らしい演奏でした。やっぱり上手いピアニストは何を弾いても上手いのだと、至極当たり前のことではありますが、心の中で唸りながらの鑑賞。

ちなみにピアノはこのホール所蔵のベーゼンドルファー。「ウィーン」に拘ったピアノ選定です。豊かな鳴りはスタインウェイとそう変わらないのですが、明らかな「らしさ」を感じたのは、第1楽章のカデンツァの左手。オケが止んでピアノだけが鳴り出すと、低音部で独特のまろやかな響きが聞こえてきたのです。カデンツァにはフンメル版を使用(前日の務川さんご自身によるX投稿)。

フンメルは名前を聞いたことがある程度だったのですが、調べたところ、モーツァルトに師事し、ショパンとも親交があったピアニストおよび作曲家で、1788年生まれなので、時代的にも古典派からロマン派への橋渡し的役割を果たした人物であったと思われます。

そのカデンツァは、高速アルペジオがふんだんに出てくる華麗で超絶技巧も堪能できるもの。ショパンを通り越してラフマニノフに通ずるものすら感じたのですが――務川さんの魅力炸裂。あの切れ味鋭い、びしっと揃った打鍵。それによってもたらされる振動を感じる響きが身体的感覚として心地よい。そうそう、これが聴きたかった。これをモーツァルトで聴けるとは!――ちょっと興奮してしまいました(笑)来てよかった!

その上、アンコールはオケとともにピアノ協奏曲第23番の2楽章をまるっとの大サービス。こちらは嬰へ短調で調性にも拘った選曲。非常に満足度の高い演奏会でした。

ちなみに来年のVol.3 は同じく下野マエストロでピアニストは小林愛実さん。楽しみです。

 

◇アンコール(先述)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 第2楽章 Adagio嬰ヘ短調

◇座席
いつものP列下手側通路際。隣と前が空席で更に快適(コロナ期を思い出す)。この手の演奏会しては客入り多め(8割程度?)だったのは、我が同胞によるものと推察。

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