16時開演 いずみホール
いずみホール音楽アドバイザー堀朋平氏と山田和樹マエストロの企画・監修により、在阪4オケが順次出演するメンデルスゾーン・ツィクルス。第3日目の「救済ー世を照らす祈り」~オラトリオ「エリヤ」を観賞しました。
他の3公演も聴きたいところでしたが、他の予定もあり、最も聴きたかったこちらのみを選択。29日の大フィル回にも行こうかと迷ったのですが、迷っているうちに完売。
旧約聖書の預言者エリヤを主人公としたオラトリオですが、ロマン派以降のオペラに比肩するドラマティックな音楽と、それを全身を使って牽引するマエストロの指揮とで、起伏に富んだスペクタクルな演奏が繰り広げられ——いやー、すごいものを聴かせていただきました。やはり「熱」だと感じた次第です。センチュリーからこれほどの熱を感じたことはおそらく初めてのこと。しかし力演であってもアンサンブルが乱れないのも素晴らしい。オケの能力とそれを最大限に引き出す指揮者の力量を感じました。
昨年2月の関フィル合唱団自主公演で、同じくメンデルスゾーンのオラトリオ「最初のワルプルギスの夜」を歌ったのですが、その際に知ったメンデルスゾーンの激しい音楽——有名なヴァイオリン協奏曲や交響曲「イタリア」などの音楽、実家が資産家であったということ、あるいはその肖像画の印象などから、メンデルスゾーンには「優美」なパブリック・イメージがついていて、このように激しく熱い音楽を残している、ということは一般的には知られていない——これを広めるためにも(限られた範囲ではありますが)このツィクルスで採り上げられたのは意義深いことだと感じました。
また声楽陣も豪華で、日本を代表するオペラ歌手の方々に合唱は東京混声合唱団。これもこの公演を選んだ動機のひとつでありました。
バッハの受難曲と似た構成ではあるものの、時代が下ったこの作品は、バッハとは趣がかなり異なるもので、歌手の表現も劇的。主人公エリヤ小森輝彦さん(存在感)の終盤の演唱や王妃イゼベル清水華澄さんの怒りの表現などは、宗教曲でここまで生々しく表現するのか?と目から鱗、オペラそのものでした。オバデヤ城宏憲さんの終盤のアリア、この役の頂点をここに持ってきたのだと明確に分かる透徹した響きが素晴らしかった。ソプラノ田崎尚美さんは安定の素晴らしさでした。なお、それ以外のソロは合唱の方で、ボーイソプラノが歌うこともある箇所(№19)も合唱のソプラノの方が歌われていたのですが、ノン・ヴィブラートの澄んだ声は美しく、大変印象的でした。
と、隅々まで素晴らしい演奏を堪能したのですが、しかし、このような宗教曲を聴くと、「信仰」を理解しない我が身とそれを補う知識の無さとでモヤモヤとしてしまうのも事実。
「雨が降らない(天が閉じる)」のは神の怒りのためだ、などという非科学的な主張に違和感を覚えるのは現代人の驕りだとしても、そもそも、あっちの神はダメでこっちの神が正だ、というこの物語の主題が理解できず(これは今なお続いている問題ですが)——字幕を見ながら「ヘンな話だ」と思い続けていたことをここに告白いたします。
しかし、先述の「最初のワルプルギスの夜」同様、これら宗教について俯瞰的に捉え、ここまでの音楽として創造するメンデルスゾーンの偉大さを改めて感じた体験でもありました。
なお、公演前に堀朋平さんとマエストロによるプレトークがあり、その際にマエストロが「この作品は合唱の役割がわかりにくい」と仰っていたのですが、正にその通り——「ワルプルギス」でも同様に、合唱が敵側の民衆だったり味方側だったりして、歌っている本人たちも初めのうちよく分かっていなかった、ということがありました。
なので、この演奏では音楽的な解決を目指し、敵対するバアルの民衆の時は敢えて「バカっぽく」歌う、とのことでしたが(その通りでした笑)——しかし、実はもっと分かりにくいのがソリスト。寡婦だったり天使だったり、王妃だったり天使だったり、その天使が他にもいたりして甚だ分かりにくい。これはオラトリオという形式の限界か、と感じてしまいました。
字幕に役名を出すのが、最も有効——セリフの前に(寡婦)(天使)などと付け加えてもらえると一気に解決!と思うのですが、文字数とご予算の関係で難しいのかもしれません。
ということで、音楽的には大変に感動したのですが、モヤっとした思いも残った公演でした。
宗教曲って難しい——。
◇座席
1階J列下手側。もう少し後ろがよかったけれど確保できず。オケの全貌が見えない席。
◇その他
マエストロはこの日がお誕生日。開演前に館内放送で「本日誕生日の山田和樹です」と自らアナウンス(笑)。プレトークでもそのことに触れると、2階席から男性の声で「おめでとう~!マエストロ」との掛け声。「これは関西ならでは、ですね。東京ではありえない」と仰ってました。お誕生日が関西での公演日でよかった(笑)
一昨年のシューベルト・ツィクルスも大好評だったので、また2年後に、と堀さんが水を向けると「いや、ちょっと難しい‥」と(正直)。今年6月にはいよいよベルリン・フィルにデビュー。今後日本では聴けなくなってくるかもしれません‥。