14時30分開演 ザ・シンフォニーホール
コロナ禍に重なってしまった生誕250年のベートーヴェン・イヤー。それでも、今年「第九」で登壇することができました。
まさに「今年」を象徴するようなコンサート。
当初予定のドイツ人指揮者、ユルゲン・ヴォルフ氏の来日が叶わず、代演となった飯守泰次郎氏が手術のため入院。そして熊倉優氏の指揮となりました。
熊倉さんは、コロナ禍で指揮者交代が相次ぐ中、国内で躍進を遂げた若手指揮者の中のお一人。鈴木優人、原田慶太楼、沖澤のどかの各氏と並んで今年後半最もよく目にしたお名前でした。
一方、私の方は5年振りに歌う第九。
第九を歌うのはあまり気が進まず(他の記事にも色々と書いたので詳しく書きませんが)、ここ数年の年末はもっぱら「メサイア」を歌っていました。
しかし、「日本の合唱団員」としては、やはりベートーヴェン・イヤーには第九を歌うべきでは?などと思っていたところ、恒例の「ベガ・メサイア」は中止(本来なら、正に今日が演奏会でした)、この「第九」のみが今年後半の登壇コンサートとなりました。
コロナ第3波で、毎日驚くような感染者数が報道される中、政府のガイドラインに沿って、厳戒体制でのコンサートでした。
入館前の検温、消毒、マスク着用はもちろんのこと、楽屋では喋らない(かなり無理)、ホールの扉、手すりを触ったら自分で拭く、など。また、ステージオーダーは市松配置で、合唱団はステージ上とオルガン席の二手に分かれての登壇でした。
この状態での合唱、客席で聴かれた方の感想は、やはり、ですが、音量が足りない、子音が聞こえない、くぐもって聞こえる、紗幕の後ろで歌っているようだ、低音はそれなりに響くが、高音が響かない(周波数とマスクによる振動の吸収に関係があるのでしょうか?)など。
歌っている方としては、毎週の練習でマスクでの歌唱と前後左右の距離感には慣れていましたし、ホールの響きがよいので隣の方の声がよく聞こえ、練習時よりも随分歌いやすかったのですが、聴かれる方としては当然の感想だと思います。
私のオーダーはオルガン席でしたので、3楽章までは「マエストロ ガン見席での鑑賞」(笑)。(もちろん、自分が見られていることは意識していましたけれど)
指揮されている表情がよく見えるので、熊倉さんの第九の音楽づくりがかなり理解できたように思います。
1楽章の「苦悩」はもとより、2楽章、3楽章も4楽章の「歓喜」に向けた序章であるのだ、ということをこんなに明確に感じた第九も初めてでした。2楽章は「時にはいい気になったり、でも諍いもあったり」し、でもその表現はまだまだ抑えられている。3楽章はその諍いのあと、荒れ地となった地面から植物がゆっくりと芽を出し、成長し、やがて草原となった大地にそよそよと風が吹いているさまを連想させるような音楽で、なんともすがすがしい気持ちになりました。こんな気分で聴いた3楽章は初めてです。でも、その心地よさもまだ抑制の効いたもので、ここから本当の「歓喜」へ持っていくのだと理解しました。
決して奇を衒ったり、新しさを狙ったものではないけれど、熊倉さんの描く音楽は好きだなぁと感じました。
4楽章は、自分もそれなりに必死だったので、残念ながらどのようであったのか客観的にはわかりませんが、久しぶりに舞台に立つことの緊張感とともに、歌うことの楽しさ、嬉しさを感じることができました。
ところで、熊倉さん、昨年びわ湖ホールの「オペラ指揮者セミナー」を受講されていて、私はそれを観に行っていたのです。このセミナー、ある程度経験を積んでいる若手指揮者が対象で、実際にオケとオペラ歌手を指揮して沼尻さんが指導を行うというものなのですが、観客として観に行っても勉強になり、美しい音楽も聴けるので、毎年行っているのです。
それでお名前とお顔をなんとなく記憶しており、今年8月に「クラシック音楽館」でN響を振っておられるのを観たときは、「あ、あの時の!」といった感じで何だか嬉しくなりました。それがこんなに早く、その指揮で歌うことができるとは。コロナ禍がもたらした数少ない「よいこと」のひとつでありました。
「受講生」(沼尻さんに結構厳しいことも言われていました)としてが最初でしたが、昨日はもう堂々とした「マエストロ」でいらっしゃいました。それでもまだ28歳! 本来なら、今年からドイツを拠点に活動を始められる予定だったそうですが、これからさらに実績を積まれて、それでもまだあと半世紀以上(!)は活躍できますね。鑑賞者としてのこれからの楽しみがまたひとつ増えました。
私のベートーヴェン・イヤーとしては、ジルヴェスターコンサートでの「ハ長調ミサ」と新年を迎えて早々の「フィデリオ」のフィナーレ、2月の関フィル合唱団コンサートでの「合唱幻想曲」と「カノン」、そして年末の「第九」。振り返ってみれば充実した合唱ライフでありました。不足を感じてはいけませんね。