2022年7月22日(金)ユベール・スダーン指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 第560回定期演奏会

19時開演 フェスティバルホール

連日の演奏会で、この日は大フィルの定期。
7月は演奏会が混み合っていますが、幸いジャンルの異なるものが隣り合う日程なので、どれも新鮮な気分で鑑賞できています。

ユベール・スダーン指揮の大フィルは、オケが力強く鳴る、素晴らしい演奏でした。

スダーン氏の演奏は、10年ほど前、サントリーホールでの東京交響楽団の定期演奏会で聴いたことがあります。東京旅行の折り「一度サントリーホールで聴きたい」と当日券で鑑賞したのでした。確かシューベルトの交響曲でしたが、オケとのやりとりを楽しんでいるかのような指揮と、振り終わりにくるりと客席の方に向かれるのがチャーミングで印象的でした。

この日は、指揮台なし、指揮棒もなし。ほぼ「ぐー」で指揮をされるのですが、振り始めからのその力感あふれる動作に「これはいい音が出る」と瞬時に思い、期待通りに豊かで艶やかな音の束が立ちあがってきて、これはいい演奏会になる、と確信したのでした。

プログラムは「編曲」もので、前半はシューマンをマーラーが編曲したもので——プログラム解説を読んだ限りでは、「編曲」というよりも「添削」といった方が正確?と思いましたが——「マンフレッド序曲」と交響曲第1番「春」。

後半はブラームスのピアノ四重奏第1番をシェーンベルクがオーケストレーションしたもの。これは大編成のオーケストラに書き換えてあり、原曲とはかなり様相を異にしています。

ところで、話はこの日の演奏から離れますが、実はこのブラームスにはちょっとした思い入れがありました。

もう30年以上前ですが、当時話題となったパトリス・ルコント監督の「仕立て屋の恋」という映画で劇中バックに流れていたのが、このピアノ四重奏の4楽章の主題だったのです。「あの曲なんだろう」と仲間内で話題になっていたのですが、当時はまだインターネットの時代ではなかったため容易に調べることもできず、おまけに映画のパンフレットを買った友人によると「ブラームスのナントカと書いてあって調べたけど、そんな曲はなかった」とのこと(真偽のほどは分かりません)。

そして、それから10年以上経った後、ふと思い出してインターネットで検索し、ようやく曲名が判明。もちろんすぐにCDを買いました。アルゲリッチ/クレーメル/バシュメット/マイスキー というスター揃いのもの。4楽章の中ごろにやっと切望していた、哀切で仄暗さの漂う旋律が現れたときは嬉しかった!——「4楽章」という情報がなかったため、聴き始めてもなかなか現れず、違うのでは?と不安になりながら聴いていたので喜びもひとしお(笑)。でも、この旋律、あっという間に終わってしまうのですね。この魅力的な旋律がたったこれだけの扱い・・意外でもあったし、少々ガッカリもしてしまったのでした。映画の影響力は大きいです。

という積年の思い?の詰まった作品(ただし部分的)だったので、とても楽しみにしていたのですが、予習としてSpotifyで聴いた演奏にこれまたガッカリ・・。

シェーンベルクによる編曲では、この4楽章にシロフォン(木琴)が取り入れられていて、それが私の抱くイメージと乖離していたのです。シロフォンを聴くと、プロコフィエフやショスタコーヴィチの諧謔的な音楽を想起してしまい、ブラームスの流れるような豊かな弦とは合わない・・なんだか安っぽい音楽になり下がっているようで悲しくなりました。

なので、覚悟して聴きに行ったのですが・・
が、しかし、これは素晴らしい演奏でした。

前半を聴いて期待はしていたのですが、期待以上に素晴らしかった。
この日の大フィルの弦の艶やかさは、これまで聴いたなかでも随一のものでした。16型大編成のつやつやの音の束。管楽器も冴えわたり、そこに入ってくるシロフォンは、ロマのカスタネットのようなアクセント。弦の横方向の大きなうねりに、管楽器と打楽器の縦方向の音楽が編み込まれ、立体感と色彩感のあふれる音楽になっていたのです。

私の大好きなブラームスの弦の流麗さも存分に味わうことができ、シェーンベルクの加えた妙味も同時に楽しむこともできて大満足。

指揮によってこうも違うものなのか・・指揮者の力量をまざまざと感じた演奏でした。
そうそう「振り終わりにくるり」もありました(笑)

◇座席
2階最前列ほぼ中央の良席!
周りに気になる雑音もなく、快適な鑑賞でした(なかなかないことです笑)。

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