2024年6月28日(金)ヤーノシュ・コヴァーチュ指揮/日本センチュリー交響楽団第282回定期演奏会 ピアノ阪田知樹

19時開演 ザ・シンフォニーホール

ハンガリー出身のマエストロ、コヴァーチュ氏を迎えた素晴らしい演奏会。

前半はハンガリーに因み、リストの交響詩「プロメテウス」とバルトークのピアノ協奏曲第3番、後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番というプログラム。

バルトークのピアノ・ソロは阪田知樹さん。
次々と若手ソリストを招聘するセンチュリー定期に、遂に阪田さんも登場。私が今期も定期会員を継続した主な理由のひとつです。

バルトークが死の間際になんとか完成させた(最後の17小節が未完成で弟子のシェルイ氏により補筆)作品で、他の2つのピアノ協奏曲に比べると当時のアメリカ楽壇への配慮からかロマン派寄りとの作風となっているそうですが、その親しみやすさが3曲の中で最も演奏機会が多い理由かもしれません。

フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー)の覇者でもある阪田さんはこのソリストにぴったり。センチュリーのキャスティング・センスはいつも素晴らしいです。技巧と音色の美しさを存分に味わうことができました。

2楽章アダージョの静謐で澄み切った世界。美しさの中に若干の異物感がある和声にもグッと掴まれるものがあるのですが、何より阪田さんの音色が美しい。芸文センター小ホールで聴いたリサイタルでの音色も素晴らしかったのですが、シンフォニーホールで聴くと一層冴えた透明感があり、高音部も軽くならずピアノが鳴り切っていたのが印象的でした。ピアノに絡む木管楽器ソロもセンチュリーならではの安定の美しさ。

それに続く3楽章は、大きな手、長い指でまったく複雑さを感じさせない余裕の演奏。バルトークらしい、打楽器的な打鍵(リサイタルで聴いた「戸外にて」を思い出しました)の迫力とキレ。アダージョの美しさに続くのがこの超絶技巧なのは痛快そのもの。この作品を阪田さんで聴けて本当に良かった。昨年末のリサイタルがその序章であったような気もしました。

アンコールもバルトークで「3つのチーク県の民謡」。これしかない!の優れた選曲。素朴でありながら瀟洒、リズミックな音楽と美音を再び。拍手は長く続き、何度も舞台に呼び戻される阪田さん。
終演後には、マエストロと「いつか1番と2番もできたらいいね!」との会話もあったそうで、これはぜひ近いうちに実現して欲しいです。

後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。
ハンガリー・プロと思いきやショスタコですか!?との思いがありましたが、聴き終わったあとに考えが変わりました。

演奏開始前に見渡したところ、弦が10-8-6-6-4と非常にコンパクトであることに驚きました。案の定冒頭の低弦が弱く、あの独特の重苦しい迫力に欠ける——これは‥と思ったのですが、音楽が進むにつれ、コンパクトであるが故にマエストロの意志が隅々まで行きわたった演奏であることがわかってきました。各パートの音が明瞭に聴こえてくるのです。この楽器が実はここで主題を演奏していたのだ、など発見も多々ある優れた演奏。

この第5番は、交響曲のフォーマットが守られているので先が読め、また各楽章の主題がそれぞれにキャッチーなので、ワクワク感もある。やはり魅力的な作品です。それにセンチュリーの演奏が巧いので、美しい音楽を堪能する喜びもありました。前半のピアノ協奏曲と同様に、管楽器のソロが美しく、特にホルンの細く強いソロは完璧。これが決まると全体のクオリティがぐっと上昇します。

しかし、弦が少ないため、金管と拮抗すべき箇所で負けてしまう場面もあり、聴きながら「惜しいなぁ」と思っていたのですが——聴き終わった後で考えるに、これは大国ソ連に踏みにじられる小国ハンガリーを表していたのではないか?と思い至りました。小編成のセンチュリーならではのショスタコーヴィチ。客演を入れて編成を大きくするのではなく、それを逆手に取ったマエストロのコンセプトだったのではないかと。そして、それは現在の世界情勢に関するメッセージであったのかもしれません。

ショスタコーヴィチを聴くと、ついつい音楽の周辺を掘ってしまいますが、それもまた楽しい。ともあれ、素晴らしい演奏に大満足でした。

蛇足のようですが、1曲目リスト「プロメテウス」。なかなかに物々しい音楽ではありますが、なんとなくオーケストラもデコボコして感じられ——その後の演奏のクオリティを鑑みるに、これはそういう音楽なのだろうと思うことにしました。

 

◇ソリスト・アンコール
バルトーク:3つのチーク県の民謡
阪田さんのリサイタルでもアンコールはこの曲でした。聴いた瞬間、頭に電光ピカリ!
アンコールの後、マエストロが何か仰ったことを阪田さんが翻訳。「バルトークはハンガリーだけの音楽ではない、日本の皆さまに聴いていただけたことが嬉しいです」と仰っていたそうです。(2階席では聴き取れず、SNSより引用)

 

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