2023年10月27日(金)藤岡幸夫指揮/関西フィルハーモニー管弦楽団第341回定期演奏会 ピアノ角野隼斗

19時開演 ザ・シンフォニーホール

ソリストに角野隼斗さんを迎えた満席の定期演奏会。

近年の若手ピアニストは本当にオーケストラの集客に貢献しています。
もちろん演奏も素晴らしい。

開演前に藤岡マエストロによる(長広舌の)プレトークがあり——開演15分くらい前にホールに到着したときには既に始まっており、席に辿り着くまで館内放送で聞いたのですが、着席以降も開演直前まで熱く語ってくださったので、冒頭部分は聞きそびれたものの、聴きどころ、見どころを把握することができました。

ピアノ・コンチェルトで角野さんをソリストに迎えるにあたり、音の美しさからモーツァルト、そして独奏部分の殆どがカデンツァである第26番「戴冠式」にした、とのことでした。

きらきらと美しい音色で奏でられる優美なモーツァルト。やはり聴きどころはカデンツァ。入りは正統的な旋律でしたが、次第にモダンな和声が取り入れられ、やがてジャズの要素が入り込み——ここまで攻めるか!?のスリリングさもあって、これは聴きごたえありました。モーツァルトもその時代の最先端だった訳で、もし現代に生きていたらこれくらいの演奏はしただろうと思わせる説得力もあり、またジャズも演奏する角野さんのアイデンティティも活かされて素晴らしいものでした。

しかしこの1年くらいの間に聴いた、若手ピアニストが弾くコンチェルトのカデンツァはほぼ自作。自作が当たり前になってきたのでしょうか。そうなると、既存のカデンツァを弾く場合には「なぜそれを弾くのか」の理由付けが必要になったりするのでは?などと考えてしまいます。

演奏後は、角野さんファンが一斉に立ち上がるスタンディング・オヴェイション。
この現象を、クラオタはやや複雑な心境で見守るわけですがーーまぁいいんじゃないでしょうか(上から目線?)。というのが、後半のエルガーの交響曲が終わった後も同じ方々がやはり立って拍手されていたので(実際に良い演奏だったのですが)、心あるファンなのだと納得した次第です。しかし2階R席中ほどから何度も発せられていた口笛は、やり過ぎ耳障り(ヴァルトビューネ辺りでやってください)。

後半はマエストロの得意とされる、英国の作曲家エルガーの交響曲第1番。
これもプレトークでの解説がガイドになり、楽しめました。
第1楽章につけられた「ノビルメンテ(高貴に)」という発想記号は、下層階級出身のエルガーのコンプレックスの表われだという話や、第2楽章はジョン・ウィリアムズがパクッている(ダースベイダーのテーマに似ています)という話、また4楽章で弦楽器の最後列プルトのみで奏でられる部分は、音の立体効果を狙っているというのも興味深いものでした——残念ながら、発せられた音は全て響き渡るこのホールではあまり体感できませんでしたが——エルガーの思うホールはきっとデッドな響きだったのでしょう、と想像(楽しい!)。

また、序奏に出てくる主題がほぼ全編にわたって登場する「循環主題」の形式であるのもわかりやすくて楽しめました。「チャイ5」ほどキャッチーではないものの、重みのある「ノビルメンテ」なこの主題、今も脳内で鳴っています。

関フィルの演奏も、重低音の迫力、弦楽器の艶やかさ——コンマス木村悦子さんのソロが美しかった!——それぞれ管楽器の響きもよく、全体的にずっしりとした英国の品格も感じられて、藤岡マエストロはやはり流石です。

この日の座席はオルガン側で、視覚的にはピアニストは胸のあたりから上のみ、金管楽器と打楽器類は全滅、という状態でしたが、ステージおよびステージ上部の音響反射板にも近いため直接音・反射音がバランスよく聴こえる良い席でした。指揮者の表情も見ることができるし、たまにはこちら側もよし。またこの席から見渡すほぼ満席の客席も壮観でありました。

 

◇ソリスト・アンコール
モーツァルト:きらきら星変奏曲 角野隼斗ヴァージョン
ジャズからヴィルトゥオーゾまで、モーツァルトでは少々足りない「すごいものを聴いた感」も満たされる、この即興演奏は素晴らしかった!ずっとお星さまキラキラ感もありました。
しかし冒頭の「きらきら星」で笑った客はたぶんモーツァルトの変奏曲を知らんのですね‥。

◇座席(前述しましたが)
オルガン席上手側2列目。

タイトルとURLをコピーしました