2024年10月27日(日)ベルリン国立歌劇場「影のない女」

16時開演 ベルリン国立歌劇場

ツアー4日目。ベルリン国立歌劇場も3日目となりました。
それにしても同じ歌劇場が毎晩別の演目をかけているというのは、日本では考えられないことですが、やはりここは本場。客席を見渡しても毎晩満席のようで、文化の違いを感じます。

この日は劇場に向かうまで自由行動だったので、朝はベルリンフィルハーモニー隣の楽器博物館に行き、一旦ホテルへ戻り、その後希望者で集まって添乗員の方と一緒に旧ナショナルギャラリーへ。ちょっとした珍道中もあったのですが、それは後に記します。

さて、「影のない女」。
ちょうど同時期に、東京二期会がコンヴィチュニー演出により第3幕のカットやその他場面切貼りの「別仕立て」での公演を行って物議を醸していましたが、こちらの公演は穏当でファンタジックな演出。かつ、そもそもが意味不明な物語に納得性を与えるものとなっていました。

そして何より、歌手が凄い!
バイロイト音楽祭常連「ワーグナー歌い」の強い声を持った歌手が並び、ピットから湧き上がる轟音をものともせず物凄い声量で歌うのです。

中でも、皇帝役のアンドレアス・シャガー氏。透明感のある美声、かつ大迫力の声量。「総毛立つ」という感覚を初めて味わいました。これまで生で聴いてきたすべてのテノールで間違いなく最上の声。右を向けば右の壁が、左を向けば左の壁がビリビリと鳴るのです。今一つ感情移入できない物語でも、彼の出番があるだけで前のめりで聴ける。これは最上のオペラ歌手ではないでしょうか。

皇后のカミラ・ニールンド氏、染物師バラックの妻のエレーナ・バンクラトヴァ氏、乳母のミヒャエラ・シュスター氏の演唱も素晴らしく、染物師バラック役ラウリ・ヴァシャール氏(巨体)の哀愁ある佇まいと低音の魅力——って殆ど全員ですね(笑)

前述のように、演出は物語を判り易く仕立てたもので、皇后には白いガゼルの被り物の助演がつき、また舞台上には現れない設定のカイコバートは黒いガゼルの被り物で時折姿を現していました——とこれは、幕間に姉と「あの杖をついた黒い山羊は何?」と話しながら解説を読み、「あ、そうか!」と気づいたもの。同レベルの鑑賞能力でよかった(笑)

鷹の声は、実際に歌手(マリア・コカレヴァ氏)が鷹の被り物で登場、しかもこれが可愛らしい造り。コカレヴァ氏は美しい人なので、被るのは勿体ない感じもしましたが。

序幕で皇后がベッドの上でうなされているところから始まったのですが、幕切れでまた同じ場面に戻ったので、これはこの物語全体が「皇后の見た(悪い)夢」であった、という演出だったのだと思われます。そうであれば、「影がないと子どもが産めない」という意味不明で不条理な設定も納得でき、ストン、と腑に落ちた、爽快な気分で帰途につきました——東京二期会コンヴィチュニー版に対する諸説紛々を色々と目にした後だったので、余計にそう思ってしまったかもしれません。

(出演)
皇帝:Andreas Schager
皇后:Camilla Nylund
染物師バラック:Lauri Vasar
バラックの妻:Elena Pankratova
乳母:Michaela Schuster
霊界の使者:Arttu Kataja
鷹の声:Maria Kokareva

指揮:Constantin Trinks
演出:Claus Guth

◇座席
前から4列目の中央下手寄り。

◇劇場内部
3日目にしてやっと余裕ができ、幕間やカーテンコール時に写真を撮りました。
ヨーロッパの劇場では、特にアナウンスがなくともカーテンコール時は撮影OKのようです。

常設のピットはオケが余裕で並ぶ広さがあり、舞台からのレベル差が目測3m程度と深い。
舞台から指揮者が見えにくいようで、舞台最寄りの左右ボックス席上部にモニターが設置されていました。ピット床から何段か上がったところに常設のプロンプターボックス。

客席見上げ

 

◇観光
〈楽器博物館〉
ゆっくりと時間があれば解説を聞きながら観れたのですが、時間がなかったため、ざっと一回りしたのみ。歴史を辿り、楽器の変遷がわかる展示となっていました。

しかし、観終わった後にちょっとした試練がありました。
行きはホテルからタクシーで。およそ10ユーロ。
「旅行で最も大事なのは時間、よってタクシー移動がよし!」と姉と価値観の一致を喜んでいたのですが、帰りのことを二人とも考えていなかった。タクシーがどこで乗れるか博物館の受付で聞いたところ、「こことあそこの角を曲がって、まっすぐ行けばヒルトンホテル」との答え。え?歩いて帰れと!? ドイツ人は歩くのが好きと聞くけど——いやタクシーがー、と食い下がったところ、近くにグランド・ハイアットがあるので、そこで拾うようにと教えてくれました。

そして、グランド・ハイアット前でタクシーに乗ろうとしたところ「Expensive、タクシーだったらUberで呼んで」と。「いくら?」と聞くと「30ユーロ」(それはない!)、おまけに「ヒルトン」と言ったら「I don’t know」ですと!知らんわけないやろ、これは乗車拒否!

といってもバスや地下鉄の乗り方を調べる時間もなく、Google先生によると徒歩20分くらいで帰れそうとのことなので、えーい歩いて帰るぞ!と8歳上の姉と猛然と歩いて帰りました。

美術館行きの集合時間には5分ほど遅刻したものの置き去りにはされず、なんとか間に合いました。ヤレヤレ。

〈旧ナショナルギャラリー〉

ホテルから徒歩で、多くの美術館・博物館が並ぶ「博物館島」へ。
こちらも新古典主義建築の重厚な構え。19~20世紀の絵画や彫刻がメインで、フランス印象派の作品も多数ありました。添乗員ご夫妻(お二人でされている旅行代理店なのです)と作品の感想を話しながら巡る楽しいひと時。音楽愛好家と美術愛好家は重なるのだなぁ、と再認識。

ヒトラーが死ぬまで傍らに置いていた、アルノルト・ベックリン「死者の島」

この日は歩き倒したのですが、意外と元気で(直後腰痛に襲われましたが、湿布を貼って寝たら一晩で回復)、前述のように大迫力オペラは全く目を閉じることなく楽しみました。

タイトルとURLをコピーしました