15時開演 豊中市立文化芸術センター大ホール
務川さんの「初出し」ラヴェル両手コンチェルトが目的で足を運んだコンサートでした。
ラヴェルのピアノソロ全曲アルバムを出されている務川さんですが、コンチェルトはこれが初出しとのこと。2年半前のラフマニノフ3番(大感動!)もこのセンチュリー豊中で初出しだったので、大いに期待して臨みました。
そして、やはり素晴らしかった!
務川さんご自身がXに「自信と並々ならぬ意欲」と投稿されていた通り、堂に入った、細部に亘るこだわりを感じる演奏でした。
冒頭のグリッサンドは薄い絹のヴェールを鍵盤の右から左へサーっと広げるかのような繊細で優美な柔らかさ。こう来ましたか!とその後への期待が高まった瞬間でした。
務川さんはやはり音が美しいし、キレのよい和音が耳に心地よい。このキレのよさが半分以上ジャズのような1楽章にピタリとはまり、ラヴェル独特の諧謔性にも説得力を感じました。
そしてなんと言っても2楽章アダージョ。ピアノのソロから始まるこの楽章の、右手の第一音目!この一音には大変なこだわりがあったのではないでしょうか。「これしかない!」というような確信を感じるもので、「一音で持って行かれる」体験でした。
この日は、背もたれのついた「トムソン椅子」だったのですが、2楽章に入る前に椅子をピアノ側に引き寄せ、椅子の背に体を預けたアンニュイな姿勢での演奏。これはこの楽章の雰囲気に沿うもので、演出(の意図はなかったかもしれませんが)としても秀逸だと感じました。
過去への追憶、郷愁といったものを感じさせる音楽ですが、この演奏では滑らかに進む乗り物の窓から流れゆく風景を眺めているような気分にさせられました。乗客が主人公のピアノで風景が木管。この牧歌的なコーラングレのソロが大好きなのですが——やや音量不足。フルートの響きは豊麗で美しかったのですが。
打って変わってリズミカルな3楽章。1楽章同様にキレのある和音とアクロバティックな高速打鍵の快さ。嬉しくなってニコニコしているうちに——すぐ終わってしまうのですね、しかもあっけなく。
しかし、全楽章を通してこの作品の魅力がすべて伝わってくる演奏で、堪能いたしました。
アンコールも大変楽しみにしていて、ラヴェル作品は確定として(勝手に決める)、何を弾いてくださるのかと務川さんのアルバムで予習していたのですが(笑)、アルバムには含まれていない、本来は4手で演奏される「マ・メール・ロワ」の終曲「妖精の園」でした(後にプログラムでこれは務川さんご自身の編曲によるものだと知りました)。これも最初の和音にじーん、ときて、最後のたっぷりとしたグリッサンドに歎息。グリッサンドで始まり、グリッサンドで終わる。選曲センス!
ということで、感想はほぼ務川さんなのですが、最初に置かれたイベールの「モーツァルトへのオマージュ」は、可愛らしい印象で、ラヴェルとの相性もよい作品でした。川瀬マエストロのプログラミング・センスはいつも優れています。
シューマン「ライン」とのつながりはあまり見えなかったのですが(来年2月の定期とも被っているし)、この演奏会のタイトル「名残」に寄せたものだったのでしょうか?
ホールが響かないこともあり、ストーリーテラー川瀬マエストロの指揮をもってしても、残念ながらあまり浸れない演奏でした。もっとたっぷりと鳴らしてほしいなぁ、と。これはアンコールの弦楽曲でも感じました。海外オケを聴き慣れるとこういうことになります‥。
◇ソリストアンコール
ラヴェル(務川慧悟編):「マ・メール・ロワ」より「妖精の園」
◇オーケストラアンコール
ヤン・ヴァン・デル・ロースト:カンタベリー・コラール(弦楽合奏版)
◇座席
2階2列目下手側
階段前の一段高い手摺が視界の妨げ。フェスティバルホール同様、回転して下げられる構造なのにそのままなので、休憩中スタッフの方にそのことを伝えたものの、よくわかっていない様子。残念。