14時開演 ザ・シンフォニーホール
今年の第九はこちらに足を運びました。
以前在籍していた合唱団で、広上マエストロ指揮の第九を歌ったことがあり、京響とのピッタリ息の合った演奏の素晴らしさ、その演奏で歌った楽しさは10年近く経った今も忘れがたく記憶に残っています。
この演奏会の会場はシンフォニーホール。であれば、オルガン席に座れば追体験ができるのではなかろうか、と、今年の第九はこの演奏会に決めました。
これで名演にならないはずはないだろうと思われる、圧倒的に情報量の多い指揮。正面から見ているので、強調すべき声部のパートに指示を出されているのがすべてわかり、ガイド付きで聴いているような見通しの良さがありました。
特にティンパニに強く指示を出されていたのが印象的で、この強打は「怒り」をあらわしていたのでしょうか?現在世の中で起こっている様々な出来事に「もっと怒りを感じていいのだ」と言ってもらっているようにも感じました。オーケストラはドイツ式配置で、座席が上手寄りだったため、低音部の迫力は全曲通してよく伝わってきました。しかも舞台に近いので振動も伝わってくる、正に躍動の第九。木管のアンサンブルや弦のピッツィカート、内声部の動きもよく聴こえ、第九の中身が理解できた気がする鑑賞体験でもありました。
それにしてもマエストロは手数(てかず)が多いし、唸り声や呼吸音、4楽章で歌が入ると口も動き——「手はオーケストラを振るので、合唱にはわたくしの唇を差し上げます」と言っておられたのを思い出しました(笑)——ドイツ語の語尾の子音をはっきり出しておられたので、これは揃えやすい!使えるものはすべて使い完璧を目指す、そういう指揮なのだと得心しました。
今回のソリストは皆さん若手。お名前は知っていましたが、初めて聴く方ばかり。声楽ソロを正面から鑑賞できないのがオルガン席の不利な点ではありましたが、皆さん安定の歌唱でした。テノール工藤和真さんは意外とロブスト系(リリコかと思っていました)。
合唱団テノールのすぐ後ろの席で、後頭部から察するに私と同年代以上と思われる年齢構成のようでしたが、若く張りがある声に少々驚嘆(一人めちゃ歌える方がいたように聴こえました)。マエストロの左手で上に上にと指示されることもなく——以前歌った時はその左手に随分と鼓舞されたのですが笑——さすがによく揃った合唱でした。
ちなみに合唱団は最初から、ソリストおよびパーカッションの3名(バスドラム、シンバル、トライアングル)は3楽章の前に登場。ソリスト登場の際に拍手が起こり、マエストロも拍手されていたので少々拍子抜け。個人的には楽章間に間を置かない演奏の方が好みなのですが、マエストロは各楽章前に水分補給されていたので、体力的なものもあったのかもしれません。しかし、各楽章がオペラの幕のようにも思え、なにより演奏が充実していることもあって、これはこれで「あり」だとも思えました。
マエストロと大フィルとの共演は16年振り、第九は20年以上ぶりとのこと。昨年まで井上道義マエストロの枠であったこの大フィルの第九演奏会、来年以降も広上マエストロでずっと続けていただきたいな、と思っています。