2025年5月11日(日)静岡音楽館AOI 開館30周年記念「ナクソス島のアリアドネ」

15時開演 静岡音楽館AOI

滅多に上演されないR.シュトラウスのオペラ「ナクソス島のアリアドネ」。
静岡日帰りで鑑賞してきました。
素晴らしい公演でした!

3年前にMETライブビューイングで鑑賞し、いつか生で観たいと思っていた作品。それが国内屈指の旬の歌手によるキャスト、沼尻マエストロの指揮で上演されると知って、大喜びでチケットを入手しました。

タイトルにあるように、このAOIホールの開館30周年記念事業の一環として企画されたもので、オーケストラは特別編成の「静岡祝祭管弦楽団」。これがまた豪華な奏者揃い。一日限りなのが勿体ない、まさに一期一会の公演でした。

序曲から「R.シュトラウス節」満載の甘美な音楽。この作品は小劇場用に書かれており、オケ奏者は37名(この日は38名)なのですが、小編成であっても、立ちのぼってくる音楽は大編成のそれと変わらぬ複雑精緻な響き。沼尻マエストロのタクトの下、名手揃いのオケが鳴らす豊潤なサウンドに早くも幸福感でいっぱいになりました。

そこへ来て、歌手の皆さんの素晴らしさ。
前半では、何といっても「作曲家」の山下裕賀さん。気鋭のメゾですが、豊かな響きと闊達な演技、幕切れの演唱はまさに快哉!多くのBravo!「音楽教師」池内響さんも声量豊かでつややかなバリトンが素晴らしい。道化師一座の小堀勇介さん、黒田祐貴さん、伊藤達人さん、志村文彦さん——いずれも脇を固めるには勿体ない方々。私の推しでもある小堀さんと黒田さんはもっとその歌唱を聴きたいところでした。また、初めて知った「従僕」岸本大さんはハッとする美声——と、若手中心のキャストにあって、「執事長」小森輝彦さんと先述の志村さんのベテランの存在感もバランス良し。キャスティングにもセンスがある、と感じました。

後半「オペラ」の「プリマドンナ」田崎尚美さんと「バッカス」宮里直樹さん。いわゆる「ワーグナー歌い」が務める役柄なのですが——田崎さんが今いてくれてよかった、と感謝の念すら抱いてしまいました。宮里さんのホール狭しと響き渡る強靭な美声。特に終盤の歌唱は素晴らし過ぎて——音圧をびんびんと感じつつ美声に浸るこの喜び。涙が滲みました。これぞオペラの醍醐味です。

そして、ある意味、このオペラの主役ともいえるツェルビネッタは森野美咲さん。前半の作曲家との二重唱は、「ばらの騎士」のオクタヴィアンとゾフィーのそれを彷彿とさせる R.シュトラウス特有の甘美な歌唱にうっとり。ただ、後半になると声が薄くなり、コロラトゥーラも何とか凌いだ感。この日は不調だったのかもしれません。しかし明るいキャラクターを演じ切って、他の主要キャスト同様、喝采を浴びていました。

さて、この公演は「演奏会形式」で、歌手はオーケストラの後ろの一段高くなったステージで簡単な演技を交えての歌唱。これで十分とも思える一方、舞台装置がないのはやはり少々わかりづらく、初めて観る人にはわかりにくかったのではないかと感じました。後半のバッカスはオルガン・バルコニーからの登場で、これはわかりやすい——と、それであれば、3人の妖精たちもこの高い位置にいた方がよかったのでは?と、チラと考えたりもしましたが、それにしてもこの妖精たち——守谷由香さん、山際きみ佳さん、隠岐彩夏さん、いずれも素晴しく、「勿体ない」その3。とにかく贅沢なキャスティングでした。

このホールは618席で、いずみホールに2階席を載せ、かつ一回り小さくした規模感。しかしいずみホールほどは響かず(2階後方で聴いた限り)、序曲が始まった瞬間には少々デッドだと感じたのですが、歌が入ると聞き取りやすく、ちょうどよい音響に感じました。

それにしても、記念事業とはいえ、この充実した内容でチケット代が6,000円とは破格。交通費とのバランスがー、いえ、安く上がるのはもちろん大歓迎です(笑)。
ちなみに、この公演を知ったのは、神奈川フィルのX(旧Twitter)投稿。オケは神奈川フィルではないのに、告知してくれていたのです。「かなフィル中の人」に感謝!

◇座席
2階の後ろから2列目。
後方が好みではあるけれど、なぜこんな後ろを取ったのか不明。しかし視界は良好でした。
会場には「業界」の方もちらほら。隣席の女性はオペラキュレーターの方とお見受けしたのですが、お声がけする勇気はありませんでした。

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