2021年3月6・7日(土・日)びわ湖ホールプロデュースオペラ「ローエングリン」

14時開演 びわ湖ホール大ホール

あの「神々の黄昏」からもう1年も経ってしまったのですね。
毎年3月の、このびわ湖ホールのオペラで月日の流れの速さを感じていますが、昨年から今年の音楽界が途中に「空白期間」を抱えてしまったためか、今回は特にそれを感じました。

感染対策上セミステージ形式の上演で、舞台前面にキャスト、その後ろにマエストロとピット配置でのオーケストラ、さらにその後ろに合唱、というステージング。キャストは舞台上に設置された高低差のある壇上で演唱、それぞれの壇に載ることによってディスタンスも確保できるという形のセット。加えて背面に、湖、軍隊、大聖堂や白鳥の騎士登場など物語の説明映像が映し出されるという構成になっていました。
(公式Twitterより練習時の写真。本番はキャストエリアに壇が設えてありました)

「ローエングリン」の上演は3年くらい前から決まっていたようですが、主なキャストが6人と少人数のこの作品は、奇しくも今の状況を察知していたかのようです。

今年もこれまでと同様、両日とも鑑賞しました。加えて「友の会」特典でゲネプロ見学もさせていただいたので計3回。「長さへの耐性」は自負するところであります(笑)

今回、特に1日目は、NHKニューイヤー・オペラコンサートのワーグナー版、とでも言うべき、日本を代表するオペラ歌手でのキャスティングで、とにかく歌唱の素晴らしさ、迫力に圧倒されました。

前方下手側端のこの日の座席のちょうど正面に立つハインリヒ国王妻屋さんの声量は圧倒的で、途中耳栓が要る!笑 と感じたほどでした。上背があり体格がよいので、そこに立っているだけで王様。

そしてやはり何といってもローエングリンの福井敬さん!登場シーンの弱音での歌い出しを聴いた瞬間、あぁ美しい、やはりこの声は好きだ、と思いました。全方位に響き渡る輝かしい声。重唱、あるいは合唱・オーケストラを背負ってもなお突き抜けて響いてくる強靭な声の力はやはり随一のものだと改めて感じました。

1幕の幕切れ、六重唱と合唱の迫力は凄まじく、涙が出そうになりました。これが生でオペラを鑑賞するなによりの醍醐味!そして幕切れ後の拍手。”Bravo!”こそないものの、ホールに響く大きな拍手を聞き、昨年の拍手のない「神々の黄昏」を思い出した方も多かったのではないでしょうか。

しかし、このプロダクション、本当にキャスティングに抜けがなく、どの歌手の方も本当に素晴らしかった。日本人だけでもこれだけのワーグナーを上演できる、コロナ禍でそのことが確認できたのではないかと思います。

今回体調不良による降板でエルザ役が両日とも変更となったのですが、その森谷真理さん、木下美穂子さん、どちらもそんなことは微塵も感じさせず、最初からこのお二人で良かったのでは?と思ってしまう素晴らしさでした。森谷さんはコロラトゥーラで有名ですが、華やかな高音に加え、低音部も豊かで説得力のある歌唱。木下さんは透明な球体がはじけるようなお姫様にぴったりの美声で非常に心地よく聴きました。

そして、この作品のもう一つの見どころは「悪役」の魅力。オルトルート、その夫のテルラムント。阿ってみたり、高飛車に出たり、状況によってさまざまに演じ分ける必要のあるこの役柄。両日それぞれのキャストで演じ方(解釈の仕方?)に違いがあり、それが楽しめました。特にテルラムント、1日目の小森さんは、オルトルートの尻に敷かれ揺れ動く、弱い面も表現していたように感じたのですが、2日目の黒田さんは尊大で開き直ったかような印象。歌手の表現の仕方によって、人物像も違って見える面白さを感じました。オルトルートは1日目谷口さんが貫録があり悪女らしかったのですが、2日目八木さんの声の迫力にも圧倒されました。今回のキャスト中唯一の関西勢ながら存在感を示していた八木さん。今後もっともっと活躍していただきたいと思いました。

そして両日とも伝令役だった大西宇宙さん、素晴らしかった!この役は歌舞伎などでいう「儲け役」(労力が大きくない割に見せ場がある)なのだそうですが、それにしても主役を凌ぐほどの存在感でした。艶やかな声での堂々とした歌唱、彫りが深くライトを浴びた顔の陰影がまたかっこいい。この方は主役でオペラに出るべき方だと思ったのですが、先ほど読んだ大西さんご自身のnoteによると、この役は若手のバリトン歌手が初めてワーグナーを歌う際の適役で、ディースカウ、ブリン・ターフェルなども歴任した「出世役」とのこと。まさに今の大西さんにぴったりの役だったのですね。

オーケストラの京響は今回も完璧に美しく壮大なワーグナーを聴かせてくれました。
音楽については自分なりに予習していったのですが、いざホールで聴き始めると、そんな「勉強」したことはどこかに飛んでいってしまい、ただその響きを堪能するのみでありました。
総勢12名のトランペット・バンダも圧巻!

この公演で唯一残念に思ったのは合唱。びわ湖ホール声楽アンサンブルにエキストラを加えた50名からなる合唱だったのですが、マスクを付けての歌唱でした。特に軍隊のシーンでの歌唱はマスクで本来の声の圧がそがれていて、マスクなしではどれほどの迫力だったのだろう、と想像するだに残念な思いが募りました。しかし「結婚行進曲」の柔らかで澄んだ響きのハーモニーはさすがで美しかったです。

ところで余談ではありますが、今回は1階席前方エリアの客席が売り止めで、中央部分にプロンプターボックスが設えてあったのですが、そのプロンプターの声がよく聞こえてきました。1日目、端の席の夫が「めちゃよく聞こえる」と言っていたのですが、私は殆ど聞こえず。それが2日目の3階席では後ろに立ちあがり壁があるせいか非常によく聞こえました。壁に反響しているのですね。プロンプターはびわ湖合唱で指導していただいている大川修司先生。「大川先生の声が聞こえる」と私は嬉しがって聞いていました。

◇その他
今回は、キャストの方に次々とお会いする、という幸運に恵まれました。こちらの方がオペラの印象より強烈に残ってしまったかもしれません(笑)

一日目の終演後、ホテルの駐車場でなんと福井敬さんに偶然お会いできたのです。止めた車が背中合わせで、しかもちょうど車から荷物を降ろされていたところでした。思わず「福井さん!」とお呼びしてしまいました。一緒に写真を撮っていただき、サインをいただき、握手までしてくださいました。写真の際には背中に腕を回してくださりエルザよりも密着。コロナ禍なのに。他のファンの皆さまゴメンナサイ。
実は一昨年前、リサイタル後の「オフ会」に参加してお話しをさせていただいたことがあるのですが、舞台での毅然、傲然としたお姿とは一転、ふわりと柔らかな雰囲気をまとっておられ、とても気さく。お話ししてとても楽しかったのです。今回「福井さん」と気安くお声がけしてしまったのもそれを踏まえてのことではあったのですが、しかし改めてその飾らないお人柄に魅了されました。

まあ、そしてさらにその後ですが、夕食に行ったレストランで演出家の粟國淳さん、翌日の朝食時に妻屋さん、森谷さん、黒田さん、と次々にキャストにお会いし、次々にサインをいただいたのでした。こんなこともあるかと出掛ける前にバッグに入れた油性サインペンが大活躍、プログラムが「御朱印帳」みたいになってしまいました(笑)

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