2023年11月19日(日)びわ湖ホール「こうもり」

14時開演 びわ湖ホール 大ホール

私としては、これが4回目の鑑賞となる「こうもり」。意表を突く読み替え演出で大いに楽しめました。
(今後東京と山形での公演がありますが、ネタバレを含みます)

狂言師 野村萬斎氏による演出で、明治初期の日本、という設定でのプロダクション。
セリフは日本語、歌唱はドイツ語での上演。

マエストロがタクトを構え、序曲が始まると思いきや・・落語のお囃子が演奏され、上手側に設えられた高座にフロッシュ役でもある桂米團治師匠が座り、活動映画の弁士の如く前口上が述べられました。「『鼻も背も高くない』日本人が演じるオペレッタ、いっそ設定を日本にしてはどうかということで、このオペレッタが初演された1874年、即ち明治維新から数年後の時代設定にした」とのこと。

この後お馴染みの序曲が演奏され、オペレッタは始まりました。

背景は黒一色、ギャラリー状の2階があるだけの簡素な舞台。
第1幕、銀行家のアイゼンシュタイン家は日本橋界隈の質屋の茶の間。中央部分に質屋の暖簾がかけてあり(福井敬さんの「福」紋入り)、畳敷きの上にちゃぶ台が置いてあるのみ。そこに質流れ品のきらびやかな着物に身を包んだロザリンデ森谷真理さんが出てくる、という設定。間男アルフレードが羽織るアイゼンシュタインのガウンが金色の羽織なのも笑えます。ひとつひとつの置き換えがことごとく設定にハマっていて納得性があり、しかも笑える、という巧みな演出。これ、考えていくのも楽しかったのではないかと思います。

第2幕の夜会の舞台は鹿鳴館。これも納得。合唱団は上下黒の衣裳で黒い横断幕を持っての登場だったのですが、これは裏返すと洋装の絵になっており、首の下で掲げると燕尾服・ドレスのにわか紳士淑女になるという仕掛け。所詮「上っ面だけ」という風刺ですね。

極めつけはオルロフスキー公爵の藤木大地さん。衣冠束帯で白塗りのお公家さんの扮装で袖からの登場が見えたときには、素で笑ってしまいました。そこへきてのカウンターテノールは「麻呂は‥」の裏声を彷彿とさせ、客席は大盛り上がり。いや、本当によくできている読み替えです。

キャストが豪華で、「シャンパンの歌」は、ほぼNHKのニューイヤーオペラコンサートのエンディングの顔ぶれで、嬉しくなってしまいました。
幸田浩子さんのアデーレは、和装の女中姿も可愛かったのですが、2幕以降の白雪姫っぽいドレスもよくお似合いでした。歌はもちろん、演技も上手い。日本語でのセリフが入ると、演技力の高さがよく分かります。

そして、ファルケの大西宇宙さん!やっぱり声も姿もカッコいい。この役はずっと洋装だったのですが、カイゼル鬚も似合って日本人離れ。米團治さんがフロッシュの演技中には代わって弁士も務められていましたが、セリフの声だけでも惚れ惚れとしてしまいます——フロッシュ(ドイツ語でカエル)に因み、途中「かえるの歌」の輪唱が始まり、二番手は宇宙さん、三番手は客席、という楽しい展開も。

何度観ても楽しい「こうもり」ですが、今回のこの趣向は大いに楽しめました。
しかしこれは演出が萬斎さんだからできたことで、通常のオペラ演出家が「鼻も背も高くない日本人が‥」の発想を持ってくると、日本で上演されるオペラの殆どを否定してしまうことになりかねず‥。まぁ、なんでもあり、のオペレッタだからこそできたことでもあるのでしょう。

さてところで、これは阪哲朗マエストロがびわ湖ホールで指揮を執る初めての大規模なプロダクション。この日は満席、客席も盛り上がって、新しい体制の晴れやかな幕開けでもあったと思います。

ウィーン・フォルクスオーパーで「こうもり」を振られたこともあるマエストロによる、本場の音楽。気品ある指揮姿を拝見しながら、でもやっぱり本場ウィーンの「こうもり」も観てみたいな‥とも思ってしまったのでした。

 

◇座席
1階N列下手側。
舞台とほぼ同じくらいの高さで、見やすい席でした。

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