15時開演 いずみホール
鈴木優人マエストロ/関西フィルがベートーヴェン没後200年となる2027年に向けて、年3回×3年でベートーヴェンの交響曲全9曲を演奏するプロジェクト。今回はその初回でした。
今年度の3回は、交響曲1~3番とピアノ協奏曲1~3番をそれぞれ順番通りに組み合わせ、冒頭に序曲を置いたプログラム。ピアノ協奏曲で使用されるのはベートーヴェン当時のフォルテピアノで、これが目当てで3回セット券を購入しました。
いずれの回も冒頭には序曲が置かれており、この日は「レオノーレ」第3番。この序曲は歌劇「フィデリオ」の第2幕フィナーレの前に習慣として演奏されることが多くあり、これはマーラーが始めたとのこと。それを知って聴くと、オペラでの暗い監獄の情景などが浮かんできます。救出のファンファーレ、トランペットはバルコニーでの演奏。異音混じりでやや残念、でも演出として楽しめました。
さて、お楽しみのピアノ協奏曲。
ピアノは開演前から舞台中央に置かれていたのですが、その小ささにまず驚き。この日使用されたのは、作曲当時の「シュタイン」をもとにドイツのノイペルト社が1989年に製作したフォルテピアノ。側板も屋根も材が薄く、5本ある脚は華奢。と、演奏が始まると、そのチェンバロのような軽やかな響きにも驚いてしまいました。
私がこれまでに聴いたフォルテピアノは、殆どがショパン時代のプレイエルだったのですが、それとはかなり隔たりがあり、それらとこれとを「フォルテピアノ」でまとめてしまっていいのか?とすら感じました。
それにしても、上原さんの演奏が素晴らしい。細かで確かな粒立ちは楽器の音色とも相俟って極上。モダンピアノほどのダイナミックレンジはないものの、マエストロの機微を得た指揮で、生き生きとしたベートーヴェンを堪能できました。
ピアノはまさにベートーヴェンの時代に進化していった楽器なので、この先シリーズの進行に合わせて、その時代のフォルテピアノで聴かせていただけると嬉しい。期待しています。
休憩後は交響曲第一番。
この作品は、ベートーヴェンが30歳になる年に初演されているのですが、既に「ベートーヴェン」。その後の交響曲の断片のような旋律や音型があちこちに散らばっているのです。運命、田園、七番、第九——あ、ここにも、ここにも!といった感じ。それらを発見するのも楽しかったのですが、何より演奏が素晴らしかった。
こう言ってしまっては卓袱台返しのようですが、前半の協奏曲で、フォルテピアノの音量に合わせて抑制していたものが解き放たれたかのようで、オケが存分に鳴っており、胸のすくような思いがしました(と、ここにきて、モダンオーケストラとフォルテピアノを組み合わせるのは、少々無理があるのでは?と感じたりも‥)。
特に2楽章のフーガ。対向配置の2ndヴァイオリンから始まる主題が反時計回りに重なる様は、視覚的にも楽しめるものでしたが、その丁寧に紡がれ、重なってゆく音楽のなんと清明で美しいこと。関フィルでこのような室内楽的な音楽を聴くのは初めてのことで、その新鮮さとともに、マエストロの手腕を感じました。センチュリーが飯森マエストロでハイドンに取り組んでいたのと同様の試みであるようにも思え、関フィルが鈴木優人マエストロを迎えたのは大正解、今後も楽しみに聴いていきたいと思いながら会場を後にしました。
◇ソリストアンコール
ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」より第3楽章
◇座席
いつものP列下手側
◇その他
この日は著名ピアニストの関西公演が多く——分身4体欲しいところでした。
以下、自宅から近い順
ミハイル・プレトニョフ(リサイタル@兵庫芸文)
鈴木愛美(センチュリー響@豊中文芸)
務川慧悟(Vn,Claトリオ@京都アルティ)
小林愛実(リサイタル@びわ湖)
せめてどれか一つはバラけて欲しかったです‥。