19時開演 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
3週間振りは久し振り(笑)
久し振りの演奏会は、近年では若手ピアニストを世界へと羽ばたかせる「名教師」としても知られる、ダン・タイ・ソン氏のリサイタル。
このところ若手ピアニストばかり(しかも男子ばかり)を聴いているので、巨匠クラスのピアニストを聴くのは私としては珍しいのですが、いや、やはり巨匠は巨匠なりの音楽があるものだと実感した素晴らしい演奏会でした。
ダン・タイ・ソン氏を知ったのは、1980年のショパンコンクールでの優勝。当時中学生でしたが、ラジオでその演奏が放送されていたのをカセットテープに録音し、「ダン・ダイ・ソン」とレタリングでタイトルを書き入れていたのを覚えています。昭和の時代。それから40余年(!)初めて実演に接することができました。
本来は今年1月30日の予定が延期されての公演で、客席はほぼ満席。若手男子ピアニストの観客が8~9割女性であるのとは異なり、4割くらいが男性客。永年クラシック音楽を聴いてきた客層であるように見受けられました。
今回のプログラムは、バッハの小曲から始まり、モーツァルトとベートーヴェンのソナタ、そして後半はショパン、と音楽史をなぞるような構成の親しみやすいものでしたが、ベートーヴェンのソナタは30番、ショパンも「エコセーズ」、「タランテラ」といった超有名ではない作品が選ばれているのも興味をそそるものでした。
さて、その演奏ですが、何より音が美しい!
切れ目なく余韻を残しながら次の音に移行していく演奏法で、その響きには潤いがあり、じんわりと心に沁みてくるものでした。1曲目のバッハからショパンに至るまで、その音の美しさに胸を打たれ、ずっと涙目になって聴いていました。
そして、やはり積み重ねてきた経歴から滲み出る説得力。
最近いろいろなピアニストを聴いてきて思うのは、演奏技術や表現力もさることながら、「どういう人物が弾いているか」が、受け手の印象を大きく左右する、ということ。
これは単なるルックスの良し悪しとは異なり、またいわゆる「オーラ」とも違う、一言では表現できないものなのですが、ダン・タイ・ソン氏の佇まいから感じるのは、何十年もの間、実績を積み上げてきたことから生まれる確固とした説得力。
こういう鑑賞体験を得るためにも、若者に偏らず、巨匠の演奏も聴いていくべきだと感じた演奏会でもありました。
ショパンのワルツでは、ときおりフォルテピアノかと思うような音色がして(スタインウェイのまろやかな音でもあります)、これこそがショパンの演奏では?と思う場面があり、一方終曲の「英雄ポロネーズ」では、力強さとともにどこか古風で優雅な響きがして、ショパンの時代を垣間見たような気がしました。
上体の大きな動きは殆どなく、始終淡々と演奏されていましたが、終曲の英雄ポロネーズでは最後の和音を弾き切った反動で椅子から立ちあがり、演奏は華やかに締めくくられました。快哉!
◇アンコール
ドビュッシーを2曲。プログラム第3部ともいえる、音楽史の流れに沿った選曲。
日本語で曲名を仰っていたのですが・・「ドビュッシーの『パ…△□※◇』を弾きます」?? 聞き取れず(笑)。下記の2作品でした。
・前奏曲第1集より第11曲「パックの踊り」
・前奏曲第2集より第6曲「風変わりなラヴィーヌ将軍」
◇座席
2階中央ブロックやや下手寄りの最後列(3列目)。段差があり、前後で半席ずらしてあるので、最後列でもよく見えました。
◇その他
座り方が独特で、椅子をかなり後ろに引き、脚は曲げずにほぼまっすぐ斜めでペダルを踏むスタイル。椅子の座り方もごく浅いので、両手を揃えて端の鍵盤を弾くと椅子から落ちるのではないかと少々心配になりました(池乃めだかのコントを思い出したり・・)。