2022年10月6日(木)北村朋幹 ピアノ・リサイタル

19時開演 箕面市立メイプルホール 大ホール

10月になり、一気に秋めいてきた今の季節にぴったりの演奏会。
ジョン・ケージ、サティ、武満徹——こういうプログラムでこそ聴きたかった北村朋幹さんのリサイタルに行ってきました。

このリサイタルの目玉はなんといってもジョン・ケージの「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」。
プリペアド・ピアノとは、ジョン・ケージにより発案されたもので、「ボルト、ネジ、ナット、プラスチック片、ゴム、消しゴム」を88鍵の約半分の弦に挟んで「準備」されたピアノ。どこに何を挟むかはすべて楽譜に指定されているそうです。

元々は打楽器のために書いた作品「バッカナール」を、場所の都合でピアノのみで演奏することになり、弦にものを挟んでミュートすることによりピアノを打楽器に造り替えるという、発端としては必要に迫られて編み出されたもので、その10年後に作曲されたのが今回演奏された「ソナタとインターリュード」。

このリサイタルの前後の日程でそのプリペイド・ピアノについての説明やトーク・イベントもあり、それにも行きたかったのですが、残念ながら都合がつかず。ちなみに、ピアノは細工が許される楽器が持ち込まれていて、北村さんは前日から半日ほどを掛けて準備されたそうです。準備の段階から演奏が始まっている、とも。建築女子としては細工を施すことにも興味があり、また細工をする北村さんも見てみたかったです(笑)

プログラムの前半は、サティと武満徹。これは、後半のジョン・ケージを聴くための「耳の準備」として組んだものだそうですが、伝わってくるものがありました。
1曲目のサティが始まったときに「こんなに豊かな音でサティを聴いてしまっていいのだろうか」と感じました。北村さんは、何かを感じずにはいられない独特の深みのある音を持っているのです。こういった単純な音形の音楽を意味あるものとして聴かせるということは、超絶技巧とはまた違った難しさがあるのだろうと感じる演奏でした。

そして、後半のジョン・ケージ。
そのプリペアド・ピアノの音色ですが、実に多彩なものでした。
低音部がかなり打楽器的で、ガムラン・ゴングのような音や、木魚かドラムの縁を叩くようなポコポコとした音など。中音部ではピアノ本来の音がしたり、高音部ではハープやトイピアノのような音色だったり・・。ちょっと笑ってしまいそうになる音も含まれていて、それらの音が淡々と紡がれていく音楽なのですが、70分以上もある長い演奏時間にも拘わらず、不思議と飽くことなく聴けました。

「ソナタとインターリュード(間奏曲)」——どこがソナタ形式でどこが間奏なのか、私のレベルでは全くわからなかったのは残念でしたが(笑)、コンサート・ホールという閉じられた空間の中で、滅多にない特別な体験をした、と感じた今までにない感覚の演奏会でありました。

このような「客を選ぶ」リサイタルを、ある程度の規模のホールで敢行してくれるピアニストはそうはいないでしょう。開演前に、音楽ライターの高坂はる香さんによるプレトークがあったのですが、北村さんは「ピアノを弾いていることがとにかく好きで、ついでに聴いてもらえればよい、というスタンス」で、「高い評価や有名になることなども望んでいない」ピアニストだと紹介されていました。

これまでに3回、いずれも大フィルで北村さんの演奏に接していますが、過去のブログに「違う世界からふっとその場に現れたような、寂しげな王子様といった風貌で、独特の世界観を秘めた佇まいにまず心を掴まれます」と書いていました。「独特の世界観を持っている」という、その第一印象はずばり的中していたようです。

これからもそのまま我が道を進み、唯一無二の存在感であり続けて欲しい。そして我々聴衆にも「ついでに」聴かせていただけたら、と思います(笑)。

◇アンコール
チャイコフスキー「四季」より「10月・秋の歌」
メランコリックな「歌」のある音楽ですが、演奏会本体の雰囲気を保ちつつも、現実世界に少し引き戻してくれるセンスある選曲だと感じました。

◇座席
買った席は8列目の下手通路側だったのですが、若干見づらいのと、前席のオジサマが前後左右にしょっちゅう頭を動かすのが気になり(恐らく隣席で熱心に聴く奥さまに「連れて来られた夫」)、後半は後ろから2列目の中央に移動。視界良好。ちなみに客入りはざっと見たところ3割程度・・。

◇その他
カーテンコール時撮影可だったので(最近増えてますね)、中央席でバッチリ映しました。
左が前半で弾いたベーゼンドルファー、右がプリペアドのヤマハ。

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