14時開演 ザ・シンフォニーホール
ショパンとリストのプログラムのよる藤田真央さんのリサイタル。
あまりの美しさに魂を抜かれました‥。
先週東京でコンチェルトを聴いたばかりで、本来ならばもっとインターバルが欲しいところですが致し方ありません。こうしてリサイタルでも真央さんを聴けることは幸せなことです。
ショパンのポロネーズ第1番から7番まで、およびリスト「ロ短調ソナタ」を組み合わせたロマン派プログラム。
何かの番組で、「別のプログラムを考えていたけれど評判がよくなくて、『だったらショパンのポロネーズを1番から順番に全部！』ということにした笑」と仰っていましたが、半分冗談のようでいて、順番通りに並べるとそれはショパンの人生を辿るものであり、明暗のバランスもとれた優れたプログラム。実は前々から構想として練っておられたのではないでしょうか。熟考の結果であっても、そのとき思いついたかのように表現するのはピアノ演奏にも通じる「真央マジック」。体力も必要ですが、24の前奏曲のように続けて演奏するのもありなのだと今回納得した次第です。
いつも通り？頭を掻きながら、ひょこひょこと登場、サッと座ってサッと弾き始める。
勇壮なポロネーズのリズム、粒の揃った和音で奏でられる強音のヴィルトゥオーゾと美しい弱音の対比が素晴らしい。曲間に殆ど間を置かず、ほぼアタッカのようにつなげて演奏されましたが、瞬時に違和感なく雰囲気を変えられるところはさすがです。
ポロネーズといえば、やはり6番の「英雄」が技巧的かつ華やかで気分が高揚するのですが、7番「幻想」のタイトル通りに靄のかかったような響きのバリエーションの多さ、繊細さ。こちらの方がより深く心に響いてくるものがありました。
前半が終わったところで、かなりのBravo！
後半の演奏前は、椅子に腰かけた後、しばらく間を取り、右手人差し指でピアノの正面辺りを差すような仕草を2回。精神集中のおまじないでしょうか。しかしほどなく演奏は始まりました。
リスト「ロ短調ソナタ」。
単一楽章で演奏時間も30分ほどの大曲。標題にあたるような言葉をリスト自身も残していないそうですが、ゲーテの「ファウスト」との関連性については「弟子たちに承認されていた」そうです。
この曲は以前生で聴いたことがありますが、その際の「よくわからないままに聴いてしまった」という残念な記憶が残っていたため、今回は前日から何度も聴いて臨みました。
標題はない、というものの（私が聴き分けられるものとして）３つの主題があり、これが何度も繰り返し現れてくる音楽だということがわかりました。「ファウスト」からの連想で、私は「悪魔（メフィストフェレス）」、「栄光」、「愛」（愛の夢に似ているので）と勝手に名前をつけてみたのですが、こうするとかなりすっきり整理され、音楽の全体像が把握できました。
リストならではの超絶技巧ももちろん素晴らしいのですが、女性的な「愛」の主題のなんと清らかで美しいこと。リストの音楽がこんなに繊細で美しいものだったとは。
雪の結晶が幾重にも重なり、冬の薄日を受けてひそやかに煌めいている——そんな景色が浮かびました。はかなげな、刹那的な美しさ。そっとそっと心の奥底にしまって、いつまでも愛でていたい‥この時間の芸術品は、この先も忘れえぬものとして記憶に残り続けると思います。
アンコールのグリーグもその延長線上にある極上の粒立ちで、魂を抜かれました。
客電が灯されるまで長く続いたカーテンコール。
袖に向かう際には、少し左足をかばって歩かれていて、ちょっとお疲れだったのかもしれません。
素晴らしい演奏を聴くと、思いを声に出して誰かと共有したい、といつもは思うのですが——この時はひとりで余韻に浸りたいと思い、幸いひとりでの鑑賞だったので、半ば放心状態でゆっくりと会場を後にしました。
◇アンコール
グリーグ：抒情小曲集 第3集op.43
10分を超える演奏で長い作品だと思っていたら、op.43の6曲すべてだったそうです（ちなみに先週の都響では5曲目「愛の歌」でした）。
この演奏会の雰囲気が気に入り、長く弾きたいと思ってくださったなら嬉しいです。
余談ですが、「ロ短調ソナタ」の私が「愛」と名付けた主題は、「愛の夢」以外にも何かに似ている、と考えていたのですが、グリーグの抒情小曲集の「アリエッタ」でした。
◇座席
いつもの2階最前列下手側。この辺りはマイシート化しています（笑）
◇その他
これだけ演奏会に行っているのに事前にチラシを入手できず。即完売だったので配布できなかったようです。この日会場に置いてあり、初めて手にしました。どんどんチケット取りにくくなっています（涙）。ちなみに女性客は9割ほど。トイレ大行列で休憩時間が10分間延長されました。
