15時開演 いずみホール
3年前にラヴェル全曲のアルバムをリリースされていた務川さん。
ラヴェル生誕150年の今年、その全曲でのツアーが行われました。
このアルバムは繰り返し聴いていますが、いつ聴いても、何度聴いても、心の琴線に触れてくる素晴らしい演奏で、それを生で聴ける至福の演奏会でした。
プログラムは3部構成。1部はソナチネ、水の戯れ、亡き王女のためのパヴァーヌ、鏡で約1時間。2部は前奏曲、高雅で感傷的なワルツ、夜のガスパールで約45分。3部は古風なメヌエット、ボロディン風に、シャブリエ風に、ハイドンの名によるメヌエット、クープランの墓で約40分。
まず冒頭の「ソナチネ」が始まった途端、あまりの音の美しさに涙目。聴きたかったのはこの響き。細やかで煌びやかな粒立ち。この作品に感じる「水」の表現——そのすぐ後に「水の戯れ」が置かれていることから、あながち見当違いではないと思っているのですが、第一部では他にも「鏡」の「洋上の小舟」など、「水」を感じさせる作品が複数ありました。また一方で同じ細かな動きでも「蛾」のくぐもった響きや怪しげなゆらぎの表現も素晴らしい。
その奏法についてどこまで楽譜に記されているのか知りませんが、タッチやペダリングの技術でピアノからこれほど多彩な響きが引き出せることに感嘆。響きのパレットの色数の多さ——務川さん、そしてピアノという楽器の新たな魅力を知った公演でもありました。
第一部は音色のバリエーション、第二部はジャズと超絶技巧、第三部はバロック様式と超絶技巧、という構成かと勝手に解釈して聴きましたが、第一部から心を鷲掴みにされました。
第二部は「前奏曲」から。ほとんどジャズに聴こえるお洒落で短い作品。タイトルの通り、これは次の「高雅で感傷的なワルツ」の前奏として、つなげて演奏されるべき、と思ったのですが——「終わりを知っている」的に無粋な拍手が入ってしまい——務川さんは立ち上がって答礼。あぁ、中断されてしまった‥残念だったけれど、「高雅で感傷的なワルツ」が始まるとそんなことはすぐに忘れ、やっぱりこの曲大好き(一番好きかも?)で嬉しい!このリズムの立った冒頭部分と、ピアノ協奏曲の2楽章に通じるアンニュイな部分がたまらない——終わらないで欲しいけれど、どんどん進んで、次は「夜のガスパール」。なんといっても終曲の「スカルボ」。この有無をいわさぬ超絶技巧で盛大に第二部が終わりました。
今回の席は手元は全く見えなかったのですが——務川さんはフォルテシモや超絶技巧など激しい演奏の時でも、ほとんど体の使い方を変えないのですね。大袈裟でない、というか。とっても細身だけれど(ご飯ちゃんと食べてる?と母の心境 )、ブレない体幹の強さのようなものがあるのでしょうか。
第三部は比較的平易な小曲が並んだあとに「クープランの墓」。
突然ワタクシ事ですが、その小曲のうち「ボロディン風に」と「ハイドンの名によるメヌエット」、および第一部に弾かれた「亡き王女のためのパヴァーヌ」は何とか最後まで弾ける?のですが、弾いてみたことのある曲は少し深く聴けるのが嬉しいところです。
ラヴェル作品には、時に一瞬ドキリとする不協和音が差し込まれているのですが(頭も手も理解できないのでクリア難しい)——務川さんはそれを実にさりげなく弾くのですね。全体の美しさを損なわない、ほんの少しのスパイス、といった感じ。その美意識にも共感です。
終曲「クープランの墓」。バロック音楽を下敷きにしたこの作品集、フォルテピアノ科も修了の務川さんの演奏には説得力があります。ここに来て、ラヴェル作品はバロック音楽からジャズに至るまで、あらゆる音楽が手の内に収まっていないと弾けないのだなぁ、と感じたりも。
それにしても終曲の「トッカータ」は凄かった!やっぱり超絶技巧を聴けると嬉しい!そういう意味でも、ラヴェルのピアノ作品はピアノで聴きたい要素が全部揃っていて——それをこれほどの完成度で聴かせていただけたことに感謝です。
拍手を送りながら、隣席の高齢の女性が右側の連れの方に「凄かったねぇ」と感想を漏らした後、それで足りなかったのか、左側の私に「生きててよかった、って思いました」と。まったく同感です。聴きながら「生きている喜び」を感じる、本当に素晴らしい演奏会でした。
◇アンコール
ラヴェル(務川慧悟編):「マ・メール・ロワ」より「妖精の園」
やっぱりこれでしょう~!再び聴けて嬉しい。
◇座席
2列目中央ブロックやや上手側。俯瞰鑑賞主義者にはありえない席(笑)
チケット発売日は10時から参戦しましたが、チケットぴあは繋がらぬまま予定枚数終了(がーん!)。続いて10時半から発売のいずみホールは繋がったもののすっかり気が急いていて「おまかせ」を選択してしまい、前から2列目しかも上手寄り、が取れてしまったのです。
手元が見えなかったのはつくづく残念だったけれど、しかし、この近い距離で聴くのは音響上も「あり」でした。次の機会に今度は下手側で狙ってみようと思っています。
完売公演でしたが、目測85%が女性。年齢層高め。1階トイレはホール入口に達するほどの長蛇の列でございました。