13時開始 びわ湖ホール 大ホール
毎夏行われているオペラ指揮者セミナー、今年は幸運なことに会社の夏期休暇と重なったので、3日間のうち2日間行くことができました。
このセミナーは、沼尻マエストロが若手指揮者にオペラ指揮を指導するいわゆる「マスタークラス」で、実際のオペラ公演同様に歌手とオーケストラを配置し、観客も入れて行われます。上演機会の多い作品が課題として採り上げられ、今回は先日公演があったばかりの「カルメン」でした。
指揮とはなにか?指揮者とはなにか?これは知れば知るほど深まる疑問なのですが、ともかくその一端を知ることができ、オペラを聴くことができ、そしてマエストロのトーク(指導です)が聞ける、という私にとってはこの上ない至福の時間。ある意味コンサート以上に楽しみであったりします。
受講者は5名で、あらかじめ決められた箇所を順番に指揮し、その後指導を受けるのですが、時に歌手やオケの方からも「こうして欲しい」という意見やアドヴァイスも出て、これも観客として興味深い内容なのです。
マエストロが指摘されることは毎年ほぼ同じで、最もよく言われるのが「振りすぎ」。1拍目を出したら2拍目、3拍目は出さない、オケがそれをいちいち見ていたら逆にずれてしまう。何より疲れて3時間持たない。それから、左手で余計なことをしない、左手は「事務」のみ(←合図を出すだけ、ということでしょうか)
つまり、いかに効率よく体を使うか、ということだと思いますが、これ難しいですよね。やはり経験を積まないと間が持たないし、1拍目しか出さない、というのは何だか偉そうぶってるみたいで若い人はやりにくいんじゃないかなーと(笑)。動きすぎるのは、真面目な性格もあるだろうけれど、何かしなければ、という不安心理から来るものではないかとも思いましたーー逆に年齢を重ねて細かい動作ができなくなった「巨匠」は、大して動かなくても奏者の方で忖度してくれるというーー指揮ってほんとに奥深いです。
マエストロのユーモアをまじえた例え話での指摘や、受講者の癖をデフォルメして実演されるのが面白くて(やられた方はヘコむと思いますが)、アハハと笑うとホールに響きわたるので何度も必死に堪えました。例えば・・
盛り上げようと右手を後ろに持っていって振りかぶると「あのね、ピットだから。すぐ後ろは壁で指揮棒あたって折れちゃうよ」。「その左手で『ぐ、にょ~』ってやるの、(タイミングが)『ぐ』だと思う人と『にょ』だと思う人がいてずれるからやめたほうがいい」などなど。
とはいっても、すでにオペラで副指揮を経験している方ばかりなので、ちゃんとオケも鳴っているし、指揮の形もすでに出来上がっています。が、マエストロが隣に並んで模範を示されるとその差は歴然。動きに無駄がないのはもちろん、流れるように美しくて、思わず見惚れてしまいます。
そのうち、私の意識は次第にマエストロの指揮動作がなぜ美しく見えるのか、を解明する方に傾き、その観察が主な目的となっていきました。以降「ヌマジリアン」全開(笑)
受講生の方と並んでいるとよくわかるのですが、まず気づいたことは、マエストロの二の腕は常に水平近くまで上がっていて、タクトは顔の高さくらいの位置にある。この方が上にも下にも動かしやすいだろうし、見た目も華やか。受講者の方の殆どは二の腕が下がっていて、その分ちょっと地味に見えるし、オケ後方からの見やすさという点でも、もっと上で振った方がよいのでは?と思いました。が、そのような指摘はされていなかったところからすると、こういった超基本的なことは大学の初期で習うものなのでしょうか。今さら言われたところで変えられるものでもないと思いますが。
それから、マエストロは常に体全体が音楽に合わせて動いていて、腕と同様に、足首、膝、腰も柔軟にいつでも動きだせる体勢になっている。全身に音楽が沁み込んでいるように見えるのです。指揮とはこうして自らに沁み込ませた音楽を奏者に向けて発出することなのだと、ひとつ判ったような気がしました。
そして、腕の太さが全然違う。長い年月、ピアノを弾き、指揮をしてきた音楽家として鍛えられたしなやかな筋肉。細かな体の動きもそうですが、タキシードのコンサート本番ではわからない、こういう機会ならではの知り得ることです。
それにしても、振ったタクトを翻す流麗な動きのなんと美しいこと。この動作をどのようにして、いつ頃会得されたのか知りたいところです。
と、ガン見で観察、考察してしまったのですが、セミナー冒頭ちょっと可笑しかった発言がひとつ。
序曲の「闘牛士の歌」の部分を振った受講者の方に、「ここ、エスカミーリョは『オレってカッコいい!』と見得を切っているのだから、そういう風に振って。(笑)あなた、そういうタイプじゃなさそうに見えるけど」ーー確かにこの方の後ろ姿は下野さん風でしたが(失礼)。そして、「ま、『オレってカッコいい』と思っている指揮者はたくさんいるけど(笑)」ーー思わず2,3人の日本を代表するマエストロのお顔が浮かびました(笑)。
というようなことで、今回はミーハーな正体バレバレの記事になってしまいました。あ、とっくにバレてますかね?
それにしても、カルメンの音楽をずっと聴いているとその魅力にどんどんハマってしまいます。このセミナー後に公演を鑑賞したかったな、とも思いました。
歌手の皆さんも素晴らしく、しかも何度も聴いていると、だんだんとその役にはまって見えてくるのが面白い。カルメンの森季子さんは、2日目最後の方ではメルセデス、フラスキータを引き連れた迫力ある姐さんのように見えてきましたし、ドン・ホセの島影聖人さん、ミカエラの山田知加さんの透明感ある高音も時間を追うごとに冴えてきたようでした。美声のエスカミーリョ迎肇聡さん「オレってカッコいい」オーラ全開(笑)
充実の2日間はあっという間に過ぎてしまいました。
来年も夏休みに重なるといいな、と、でもしかし、沼尻マエストロは来年限りなので・・いや、今は考えないことにしています(既にかなりロス 涙)。