19時開演 ザ・シンフォニーホール
ピアノ独奏の牛田智大さんで大入り満席の定期演奏会でした。
今シーズンのラインナップが発表されたときから「センチュリーのピアニストがすごい」と話題になっていましたが、その企画の狙いは大当たり。満席の客席を見渡すのは観客としても嬉しいものです。
ショパンのピアノ協奏曲第一番。
デビューが早かった牛田さんは、この曲をもう何十回と演奏されているのでしょうが、確固としたテクニックでショパン独特の移ろいゆく世界を表現されていて、繊細なレガートや軽やかにマルカートで駆け抜けるような表現など、多彩な奏法にも聴きごたえを感じました。
カーチュン・ウォン氏の指揮は、ソリストに合わせて伴奏をする、というスタンスではなく、オーケストラのそれぞれのパートもしっかりと際立たせるもので、立体的でとてもカラフル。コンチェルトでオーケストラにこれほど細かくしかも大きく煽るような指示を出すのも珍しいですが、奏者は楽譜なしでも演奏できるのではないかと思うほどに、とにかく的確でメリハリがあり、見ていても楽しいものでした。
そのマエストロの独特の動きのせいか、はたまたこの日の湿度のせいか、このショパンには何かオリエンタルな美しさを感じました。(そういえば第一主題は「あなた変わりはないですか~」ですね 笑)
2楽章などは、牛田さんの奏でる美音に、中国かベトナムの睡蓮の池に雨粒が波紋を広げるさまが思い浮かびました。慈雨。ポーランドの平原に吹き渡る爽やかな風、とは真反対ですが、心の深いところがじんわり安らいでいくような心地よさでした。
3楽章フィナーレは意外とあっさりとしていたのですが——昨年のショパンコンクールのファイナルでのブルース・リウさんや反田さんのアグレッシブな力演にこちらの方が慣らされてしまったのかな、とも思い——またもやショパンらしい演奏とは?の無限ループにはまりそうです(笑)
後半は、リムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」。
このところ、ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」、ムソルグスキー「禿山の一夜」、プロコフィエフ「ロメオとジュリエット」とロシアの物語性のある音楽が続いたのですが、共通して感じるのは「分かりやすさ」。耳に残る覚えやすいメロディと色彩感あるオーケストレーションでどの作品もとても魅力的です。この分かりやすい音楽に、カーチュン・ウォン氏の分かりやすい鮮やかな指揮!これはもう、エンターテインメントでした。
シェヘラザード、千一夜物語の語り部となるこの女性の音楽は、独奏ヴァイオリンが奏でるのですが、この日のコンマスは松浦奈々さん。やはり女性奏者の方が鑑賞する方としても物語に入っていきやすくて良かったです。というよりなにより、松浦さんの演奏がとにかく美しくて惚れ惚れ。ばりっと男前にコンマスの働きも全うしつつ、このたおやかな旋律を奏でる技量も素晴らしい。終曲結びの超高音が夢のように消えていったあと、客席からは感嘆のため息が漏れました。
ショパンにオリエンタルな印象が残ったのは、このシェヘラザードの記憶に引っ張られている部分があるかもしれませんが、この作品でもっとも有名な第3楽章の「若い王子と王女」に出てくる美しい旋律は耳馴染みがよく、思わず歌いたくなります。終演後、規制退場を待っている間、隣の男性客にチラとこちらを見られて、無意識に鼻歌を歌っていたことに気づいたのでした(笑)。リムスキー=コルサコフと同じ「五人組」のボロディン「韃靼人の踊り」にもどことなく似ているこの旋律は、アラビアというよりは中央アジアという感じもするのですが。
◇ソリストアンコール
ショパン「24のプレリュード」第4番 Op.24-4 ホ短調
これはコンチェルトとの調性繋がりだとすぐにピーンときました。というのが、実はつい先日プレリュードの楽譜を購入し、この曲も弾いてみたからなのです(技術的にはかなり平易)。タイムリー!
シューマン「トロイメライ」
マエストロがピアノの弾き真似をして牛田さんに2曲目を催促(笑)。「おやすみなさい、いい夢みましょう」といった感じで観客も納得。短調のプレリュードで終わるのは少々寂しい感じもしたので良かったです。
◇座席
1階P列ほぼ中央。
例の「イビキおじさん@まさかの定期会員」の件で、この日から定期の座席を変えてもらいました。今までピアノはもっぱら2階席下手で聴いていましたが、1階のこの席は手元はバッチリ、横顔も見れるし、オーケストラの内声部もくっきりと聞こえるのでむしろよかったです。
しかもチケット売り切れにも拘らず、前席、前々席がミラクル空席だったので視界はすこぶる良好。願わくば1月定期の反田さんのときもそうであって欲しいです。無理かな?