2025年2月16日(日)阪田知樹ピアノリサイタル《リストへのオマージュ》

14時開演 いずみホール

2021年から3年にわたって開かれた「ショパンを巡って」のリサイタルシリーズ全3回の続編ともいえるリサイタル。ショパンの2つのエチュード集全曲のプログラムでした。

チラシに書かれていたのは、「別れの曲」「黒鍵のエチュード」「革命のエチュード」「木枯らしのエチュード」ほか——これは、エチュードを中心として、他のメジャーな作品でのプログラムだろうと予想していましたが——さすが阪田さん!エチュード全曲、ときました。いい意味で予想は裏切られ、その安易に聴衆に迎合しない姿勢に信頼度がさらに高まりました。

考えてみると、ショパンのエチュードを演奏会ですべて聴いた経験はなく、その意味でも有意義なリサイタルでありました。

前述3回シリーズのリサイタルでは、開演前にプレトークがあったのですが、今回はステージに登場するなり即座に演奏が開始され、Op.10-1から演奏は始まりました。この作品も、タイトルは付いていないもののキャッチーな音楽なので、いきなり掴まれます。

やはり阪田さんは音が美しい。音が美しいというのは絶対的な武器。声楽家にとっての「声の美しさ」と同様に、ある程度持って生まれたものに左右されるのではないか——と、近年多くのピアニストを聴いて抱いている考えです。

いつも「痛快」だと思う、超絶技巧を易々と弾きこなす技術も、フォルティシモの迫力も素晴らしく、知っているつもりの作品であっても、違う内声が聴こえてきたり、と、堪能させていただきました。

それに、Op.10の終曲(革命)もOp.25の終曲(木枯らし→大洋)も、大迫力で終わるのですね。ショパンはリサイタルで順番にすべて弾かれることは想定していなかったかもしれませんが(「練習曲」なのだし)、しかし、どちらも掉尾を飾るにふさわしい強さを持っていて、プログラムとしても優れていると感じました。

ところで、いずみホールは「よい響き」と言われますが、私は響き過ぎではないかと、特にピアノを聴くと感じています。音の輪郭がぼやけて聴こえて残念だな、と。実は今日も冒頭に若干そのような印象があったのですが、後半、何かを変えたのか、或いはこちらの耳が慣れたのかもしれませんが、音が一層冴えて聴こえるようになったのです。その意味でも満足度の高い演奏会でした。

カーテンコールの後、マイクを持って登場の阪田さん。今回は「ストイック」なプログラムだったので、演奏前にトークを入れると緊張感がなくなる、との考えで、プレトークは行わなかったとのこと。納得です。

「リストへのオマージュ」のタイトルとしたのは、ご自身がいわゆる「リスト弾き」であることに因むもので、ショパンの2つのエチュード集は、それぞれリストおよびリストの愛人のマリー・ダグー伯爵夫人に献呈されたものであることや、初見弾きが得意なリストがこの作品だけは初見で弾けず、一旦持ち帰って1週間後にショパンの前で暗譜で演奏した、というエピソードなどの紹介がありました。

そして、タイトルにあるリストの作品を演奏しなかったので、とのことで、アンコールはリストの「愛の夢」第3番。これも見事な粒立ちで超絶美しかった!

きれいに終わってしまったので、これ以上のアンコールは望めないだろうと思いつつ拍手を続けていたのですが、早々に客電が灯されてしまい、客席からは「あーぁ」の落胆の声。

「英雄ポロネーズ」とか「舟歌」とかも聴きたかったなぁ、と思わないでもなかったけれど——いややっぱりそれは蛇足——満足感いっぱいで帰途につきました。

このシリーズ、来年以降も続けていただきたいです。

◇アンコール
リスト:「愛の夢」第3番

◇座席
M列下手通路側。
左手が見えづらい。次はO列以降で。

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