2023年12月15日(金)阪田知樹ピアノ・リサイタル「ショパンを巡って」第3回

19時開演 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール

昨年に続く、阪田知樹さんのリサイタル。

昨年のブログで「ぜったいに行きます!」と誓った通り、今年も行ってきました。

今回も素晴らしかった!

「ショパンを巡って」の3回シリーズ最終回で、副題は「連作集ー新たな世界」。
ショパン「24の前奏曲」、シューマン「クライスレリアーナ」、バルトーク「戸外にて」の3つの作品集および冒頭にイタリアの現代作曲家ベリオの小品「水のクラヴィーア」が置かれたプログラムでした。

「24の前奏曲」と「クライスレリアーナ」だけでもかなりのボリュームですが、それにバルトークが加わるハードさ。さすが阪田さん。今年の9月にはサントリーホールでラフマニノフの協奏曲全5作品を1日で演奏したピアニストでもあります。

冒頭のベリオは2分にも満たないバガテルのような作品。タイトルの通り、透き通った水を連想させます。この演奏が終わると一旦立ち上がり、拍手→返礼→一旦退場 の流れ。ショパンの前奏曲は「雨だれ」が有名ですが、その他にも雨を連想させる曲もあるので、そこからの連想でこの作品が前に置かれたと推測していたので、続けてショパンに入った方が効果的だったのでは?と思いました(拍手されてしまうかもしれませんが)。軽い指慣らしだったのでしょうか。

ショパンの前奏曲が始まるや否や、その美しさに早くも涙目。
この作品は、長調と短調が交互に並んでいるのですが、なぜか長調にグッときてしまうものがありました。明るい美しさ。じわりと滲む美音。

前日に楽譜を見ながら予習し(この作品集には中級レベルでも弾けるものがかなりあります)、調性の並びを知って改めて感嘆。ハ長調・イ短調から始まり、♯シャープがひとつずつ増えていき、♯6つから♭6つになり、今度は♭フラットがひとつずつ減っていって最後は♭ひとつの二短調で終わる。

このニ短調の冒頭は、指さし形の右手人差し指で弾かれました。となればラストの単音、この「とどめ」のような3音は弔鐘?私は棺に釘を打つさまを連想するのですが——表しているのは「死」に他なりません——予想通り、握り拳の左手親指でした。

このように、阪田さんの演奏はどれもこちらの「このように弾いて欲しい」にフィットする表現で、打鍵技術の見事さにも惚れ惚れとしてしまいます。
今回も正面の席で鑑賞しましたが、長くしなやかな指が余裕を感じさせる運指で鍵盤を駆け回るさまに見惚れてしまいました。そして背筋がスッと伸び、脚の置き方もスマートで演奏姿が美しい。これも魅力のひとつです。

休憩後は「クライスレリアーナ」。
プレトークでも「『ショパンを巡って』のシリーズで、ずっと一緒に弾いていたのがシューマン作品」と仰っていました。「聴く側の感情に寄り添うのはショパンだが、弾く側の感情に寄り添うのはシューマン」と書かれているのをどこかで見たことがありますが、阪田さんもシューマンがお好きなのですね。この作品が書かれたのはシューマンがクララとの結婚を反対されて苦しんでいた時期とのことで、どの曲も——長調であっても、「どうしてどうして」と訴えているように聞こえます。

そしてバルトークの「戸外にて」。
「ピアノを打楽器として扱っている」この作品、冒頭の「太鼓と笛」の大迫力のリズミックな表現。音量の豊かさ。この小ホールでピアノを聴くのは大好きなのですが、このバルトークは大ホールで聴いて、そのダイナミックレンジをもっと享受したいと思いました。バルトークと言えば「夜の音楽」を連想しますが、第4曲がそれで、独特の「闇」を連想する透明感にはやはり魅了されます。

アンコールはハンガリー繋がりでリスト(超絶技巧作品)だろうと予測していたのですが、「別のタイプの曲も」とのことで、同じくバルトークの「3つのチーク県の民謡」。そして、阪田さんの編曲によるラフマニノフの歌曲「ここは素晴らしい処」。それでも鳴りやまぬ拍手にもう1曲、ガーシュインの「魅惑のリズム」。この超絶に速く細かい動きの演奏は見事!ほぼ全員総立ちでの終演でした。

ところで、今回もプレトークとアフタートークがあり、この内容も興味深いものだったので記しておきたいと思います(昨年と同じく、開演15分前に始まったプレトークは19時ぴったりに終わりました。天才!)。

「24の前奏曲」と「クライスレリアーナ」を並べたことについて、「クライスレリアーナ」はショパンに献呈されていることがまずひとつ。しかしショパンは「24の前奏曲」を、ピアノ製作者のプレイエルに献呈しており、プレイエルに断られたらシューマンに献呈するつもりだったとのこと。ちなみにショパンのバラード2番はシューマンに献呈されており、この相互献呈2作品を組み合わせるピアニストもいるとのこと。

生年が同じこの二人の関係は、どうやらシューマンの片思いであったらしく、「クライスレリアーナ」を献呈されたショパンの感想は「表紙がきれいですね」。ショパンはあまり性格がよくなかったらしい(笑)、とのお話も。

なお、この2作品は同じ年(1838年)に発表されており、作曲家はともに28歳。その作品を現在29歳の阪田さんが演奏するのはぴったりだったのではないかとも思いました。

そしてアフタートークでは今年1年を振り返られて、「リサイタルも室内楽も行ったけれど、協奏曲の演奏機会に恵まれ過ぎていて、20作品もの協奏曲を演奏した」とのこと。ピアニスト仲間からも、いつ練習しているのだ、と訊かれるけれど、自分でもどうやっているのかよくわかりません、と。演奏技術もさることながら、畏怖の念すら抱く記憶力です。

このように、演奏もトークも楽しめるこの素敵なリサイタル、3年に亘るこのシリーズは今回で終わりでしたが、ファンの熱い要望もあって再来年春にはいずみホールでのリサイタルが予定されているそうです。よかった!楽しみです。

◇アンコール(先述していますが)
バルトーク:3つのチーク県の民謡
ラフマニノフ/阪田知樹編:ここは素晴らしい処
ガーシュイン/ワイルド編:魅惑のリズム

◇座席
正面ブロックの中央、後ろから2列目

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