2022年5月28日(土)マルティン・ガルシア・ガルシア ピアノリサイタル

14時開演 ザ・シンフォニーホール

昨年のショパンコンクール第3位のマルティン・ガルシア・ガルシア氏。
ほぼ満席の会場。
ショパンコンクールのYouTube配信の影響力を開演前にまず感じました。
そして、ピアノリサイタルとは思えないほどの沸き立つ大喝采でしめくくられた公演でした。

スペイン人=明るく陽気、情熱的——というのはあまりにステレオタイプではありますが、それを体現したかのようなマルティン・ガルシア・ガルシアさん(以下マルシアさん)。

コンクール予選では、バルのバーテンダーのようなジレに蝶ネクタイのキャッチーな出で立ちと明るい歌い口の演奏が印象的でした。音楽ライター飯田有抄さんの現地レポートに「ぼく、太陽の国からやってきたよ!ショパン、君の冷えた体をあたためてあげるよ!一緒に踊ろう。ニコッ」とありましたが(飯田さんの妄想です)、まさにその通り!そんなわけで、実際に生で聴いてみたい、と思っていたコンテスタントのひとりでした。

もちろんのオール・ショパンプログラム。
バラード第1番と第3番、英雄ポロネーズ、ソナタ第3番と、これらの作品が聴けるだけでも満足感が得られる、私の「ど真ん中」の嬉しいラインナップ。

恵まれた体格に長くしなやかな指。重低音から繊細なタッチまで「何でも弾ける」タイプのピアニストだな、と思っていましたが、まさにその通りでありました。

ピアノはショパコン時と同じファツィオリ。伸ばした長い指で高音部をさらさら撫でるように弾くとピアノがそれに呼応してキラキラと鳴り、力をかけて鳴らした低音部はまるでオーケストラのごとき迫力。その響きは完全にマルシアさんの演奏にシンクロしていて、ピアノとの相性の良さを感じました。

——シンフォニーホールでファツィオリを見たのは初めてでしたが、今回特別にファツィオリ社から持ち込まれたものだったのでしょうか?

ところで、マルシアさんと言えば「歌」。

前半は控えめでしたが、後半のマズルカから歌声がかなり聴こえるようになり、ソナタの第3楽章Largoではもう完全に「弾き語り」。しかも、本気で歌ったらかなり上手いのではないかと思われるテノール・ヴォイス。
コンクール中のインタビューで「なぜ歌うのですか」と問われ、「ピアノはレガートができない楽器なので、歌ってレガートを忘れないようにしている」との回答をされていました。なるほど。そして歌っているときはある種の境地に入っているのだとも。天才のみが知り得る「無我の境地」。なんとなく想像はできますが、凡人には叶わぬこと。うらやましい・・

スタンディング・オヴェイションも起こる大喝采に応えて、アンコールはなんと5曲!
この客席の盛り上がり、イタリア製のファツィオリとの相性の良さと同様に、ラテン系のマルシアさんは大阪の聴衆とも相性が良いのではないかと感じました。
そしてアンコールが重なるごとに、観客もマルシアさんもヴォルテージがどんどん上昇し、最後の2曲ラフマニノフの超絶技巧と音圧はまさに圧巻!——と、私が彼に期待していたのは、実はこの手の音楽だったのではないかとこのときハッキリと認識してしまったのでした。

ショパンコンクール——「ショパンらしい演奏とはなにか?」ということに、コンテスタントも審査員も聴衆さえも翻弄され、受賞者に対して「あのような演奏はショパンらしくない」との批判が毎回起こってしまうこのコンクール。アルゲリッチが優勝した50年以上前にも言われていたそうですから、もうこれはどうしようもないことのようです。

そのコンクールが、ピアノ界最高峰のコンクールであることは、ある意味不幸なことではないか?それはコンテスタントのみならず、聴衆にとっても・・というようなことを、演奏の余韻とともにぐるぐると考えながら帰途に着いたのでした。

◇アンコール
・ショパン:ワルツ第7番op.64-2
・リスト:2つの演奏会用練習曲「小人の踊り」
・ショパン:ワルツ第4番op.34-3
・ラフマニノフ:エチュード「音の絵」op.39
・ラフマニノフ:「楽興の時」op.16

◇座席
2階2列目下手側。前列は小柄な女性で視界良好!(8割強が女性の観客)
双眼鏡でじっくり観察。

◇その他
私はチャイコフスキーのピアノコンチェルトにハマった中学生の頃から、若手男子ピアニストの演奏が好きだったのですが、ン十年経た今も変わってないことをこの日再認識。ということで、7月のアレキサンダー・ガジェヴさんのチケットもこの後買ってしまったのでした。その前にアレクサンドル・カントロフさんのリサイタルも行きます。大変です(笑)

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