2023年9月16日(土)ミハイル・プレトニョフ ピアノ・リサイタル

14時開演 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

「ショパンを弾く!」というタイトルが付された巨匠プレトニョフのリサイタル。

一晩経っても感想をどう締めくくればよいものか、ぐるぐる考えてしまうリサイタルでした。

超絶的速さで弾くこと、大音量で弾くこと、それらにはもはや興味がありません、とでもいった感の、晩年の巨匠がひとり自分のためだけに弾いているような極めて内省的な演奏だったのです。

プログラム冒頭から音量もテンポも抑えた演奏で、弾きたいように弾いているのか、弾けるように弾いているのか(指が回りきらないことによるミスタッチも時折あり)、恐らくはその両方であると思われますが、判断がつきかねていました。

しかし、やはり巨匠ならではの存在感で、聴衆を集中させる力があるのです。
満席2000人超の聴衆は、そのモノローグのような演奏を息をひそめて聴き入っていました。

当初予定のプログラムにはなかった「舟歌」が追加されており(前日の高崎公演では直前の発表だったらしいですが、こちらでは配布プログラムに載っていました)、これは大変楽しみにしていたのですが、なんとも起伏のないなだらかな演奏で、途中目を開けたまま気を失っていました。
ヴェネツィアでゴンドラに乗ったことも、そのときの思いも、すべては過去のこと——といった風情はどの作品の演奏にも感じられて——昔これらの曲を弾いていました、と記憶をなぞっているかのような印象を受けました。

休憩後はノクターンを6曲。
最初はもっとも有名な第2番。ルバートをかけまくり、トリルを追加し、ジャズのような自由さ。もはやなんでもあり? しかし中音部から高音部にかけての音質の美しいこと。客席の集中は、その美しさを聴き逃すまいとする姿勢から生まれていたのではないかと思います。

終曲の「英雄ポロネーズ」。ヴィルトゥオーゾな演奏はすでに期待していなかったのですが、終始柔らかい柔らかい演奏。ショパンはこの曲が華々しく演奏されることを好まなかった、という話を思い出しました。そして、作曲された当時のフォルテピアノの響きを連想させるものでもありました。

そのうち、ステージの照明もなんだか黄昏色に見えてきてしまって——しかし人生100年時代、60代半ばでたそがれるのはまだ少し早いのでは?と思ったり、常に人前に出て緊張にさらされる演奏家という過酷な職業について考えてしまったり。感動とはちょっと異なる様々な思いを抱いて会場を後にしたのでした。

 

◇アンコール
グリンカ(バラキエフ編):「ひばり」
モシュコフスキー:エチュードop.72-6

このアンコールの演奏が素晴らしかった!粒立ちの何と細やかで輝かしいこと!
超高速での煌めきを聴いて、前半のあれは何だったのだろうと。騙されました?(笑)

◇座席
1階下手側バルコニー後部2列目。行くかどうか迷い、ギリギリにチケットを購入したため補助席での鑑賞。前列客の頭の隙間からちょうどピアニストとその手元が見えて、とりあえず視界良好。「雨宿り席」で前半は正面席後部の客席ガサゴソ音の反響が気になる(後半は極めて静か)。

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