2025年6月26日(木)ダニエル・オッテンザマー クラリネット・トリオ・アンソロジー

19時開演 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール

ウィーン・フィル首席クラリネット奏者のオッテンザマー氏が、幼馴染みのシュテファン・コンツ氏(ベルリン・フィル チェロ奏者)、クリストフ・トラクスラー氏(ピアノ)と結成したトリオの日本ツアー。多彩なプログラムでの演奏会でした。

この豪華な顔ぶれを小ホールで聴ける、というのもあって出掛けた演奏会でした。

フォーレの三重奏曲(オリジナルはヴァイオリンでのトリオ)、ニーノ・ロータ(伊)、タネジ(英)、そしてベートーヴェン、という作曲家の国籍も様々なプログラム。ちなみに、このトリオでは、他にブラームスやブルッフ、グリンカ、ツェムリンスキーといった様々な作曲家の作品を集めた7枚組のCDをリリースしているそうです。

さて、冒頭のフォーレ三重奏曲。
原曲はヴァイオリンでの三重奏曲ですが、作曲の途中ではクラリネットが想定されていたとのこと。なぜヴァイオリンに変更したのかは不明ですが、当初作曲家の頭の中で鳴っていた音楽の再現、ということになるのでしょう。まず、クラリネットのヴォリュームある響きに驚きました。クラシック作品で聴き馴れたまろやかで柔らかい音ではなく、吹奏楽的な鋭い音色。ここまで強く吹いていいのだ、と説得されかけましたが(なにしろウィーン・フィル首席なのだし)——うーん、どうなのでしょう?好みが分かれそうです。特に3楽章のチェロとのユニゾンはこれまでに聴いたことのないサウンドで——これはこれで面白い、と思いましたが、チェロもピアノも大きく盛り上がり、ちょっとフォーレの世界とは遠い感じ。しかし、最終音とともに奏者スタンド・アップで爽快!このパフォーマンスで客席も大いに盛り上がりました。

続いては、映画音楽で有名な、ニーノ・ロータのクラリネット三重奏曲。
ニーノ・ロータ、と聞くと、「ゴッド・ファーザー」や「ロミオとジュリエット」を思い出すのですが、作曲家本人は「本業はクラシック作曲家で、映画音楽は趣味」と語っていたそうです。交響曲やオペラ作品もあり、再評価の機運が高い、とのこと。

この作品は、「調性のある新しいクラシック」といった感じで、美しい旋律やユーモラスな掛け合いがあり楽しめるものでした。しかし、あれほどのメロディ・メーカーなのに、映画音楽ほどキャッチーな旋律がないのが惜しい——チャイコフスキーやドヴォルザーク並みの「歌える」クラシック作品を残して欲しかったところです。ともあれ、この演奏では、ピアノの美しさにハッとする箇所がいくつもありました。クラリネットは依然元気印(笑)。終楽章はプロコフィエフ?ショスタコーヴィチ?風のユーモラスな曲調で、前曲同様スタンドアップ→喝采で前半が締めくくられました。

休憩後は少し落ち着いた雰囲気となり、イギリスの作曲家タネジ(1960年生、存命)の作品。友人の哀悼のために書いた作品。一転、クラリネットが弔いの色調を帯び、荒涼とした心象風景を思わせる音楽。前半との対比、後のベートーヴェンへの繋がりとしても、センスある選曲だと感じました。

終曲のベートーヴェン三重奏曲は、1800年(先日聴いた交響曲第一番初演と同じ年!)に初演された七重奏曲を作曲家自身が後に三重奏に編曲したもの。
ここに来て、やっと「ウィーン・フィルのオッテンザマー」を聴けました。まろやかであたたかい音色。レガートの長いフレージングでは循環呼吸を使っているのが目の当たりにできました。ちょっと安心した、というか。聴きたかったのはこの類だったので(笑)。しかし、前半のあの演奏から察するに、普段のオーケストラの活動では物足りないのものがあるのかもしれない(もっと大きい音で吹きたい、とか?)と感じてしまった演奏会でもありました。

ところで、この作品の3楽章のメヌエットは有名な旋律で、ピアノで練習した記憶もあるので、ピアノソナタの転用かと思い、前日にChat GPT氏(最近の贔屓)に「ベートーヴェンop.38はピアノソナタ?」と聴いてみました——と、「いいえ、ベートーヴェンop.38はピアノソナタではありません」と明快なお答え。そうか、ふむ。しかし、会場でプログラム解説を読むと「ピアノソナタ第20番の2楽章からの転用」と書いてあるではありませんか。帰宅後、GPT氏に誤りを指摘したところ、「そのとおりです」ですと! A I 相手に怒るのもナンですが——まだまだ頭から信じてはならない、と悟った一件でした。ちなみに「そのとおりです」の後に、出版の順序が逆だったとかいろいろ教えてくれました(言い訳に見えたり笑)。

ところで、横浜出張からこの翌日の金曜日までは毎晩用事が詰まっており、怒涛の1週間でありました。よってブログネタは渋滞。なんとか思い出し、ごまかしつつ3公演分やっと完成。今週末にはまたひとつビッグイベントがあるので、その前にとりあえず片づいてスッキリ?——誰かに催促されているわけでもありませんが(笑)

◇アンコール
ロバート・ムチンスキ:幻想的三重奏曲 作品26 第4楽章
パウル・ユオン:4つのトリオ・ミニアチュール 第1曲「夢」

◇座席
G列中央ブロック上手側。
視界よし音響よし、やっぱりこのホールは好きです。

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