14時開演 いずみホール
毎年恒例の森麻季さんのリサイタル。
昨年はパイプオルガンとの共演という珍しい趣向でしたが、今年は通常のピアノ伴奏に戻っての演奏会でした。
プログラムは、「幸せを夢見るヒロイン」のタイトルで、よく知られたオペラアリアと一般的にはあまり知られていない歌曲などを組み合わせたもの。オペラアリアは、「椿姫」の「あぁ、そはかの人か~花から花へ」、「蝶々夫人」の「ある晴れた日に」、「ノルマ」の「清らかな女神よ」など、重量級の作品が入れられており、堪能できるものでした。
名前を聞くのも初めての作曲家の作品もいくつかあり、フランス・オーヴェルニュ地方出身のJ.カントループの羊飼いの恋模様を描いた「バイレロ」は谷を挟んで呼び掛け合う軽い演技付きの歌唱が印象的。原語(オーヴェルニュ?地方の言語)で歌われました。また、イタリアの司祭でもあった L.レーフィチェ「雲の影」も美しい旋律で、声楽を習っていたら発表会で歌ってみたい、と感じた作品でした——余談ですが、「ソルヴェイグの歌」、「ルサルカ」の「月に寄せる歌」は実際発表会で歌ったことがあり、しかもどちらも同じく原語のノルウェイ語、チェコ語での歌唱だったので嬉しくなりました。
また、プログラム最後に歌われたマスネの歌劇「タイス」のアリアは、今ではヴァイオリン独奏曲として知られる「タイスの瞑想曲」の旋律にのせて歌われるものですが、オペラとしては殆ど上演されない作品ゆえ、貴重な鑑賞体験でありました。高音はもちろん低音の迫力も必要な音楽で、オペラではドラマティックソプラノが歌うのでは?とも思ったのですが、さすがは森さん、低音もしっかりと鳴るのですね。常に完璧な歌唱に今回も感嘆でした。
とは言うものの、高音がやや叫び気味と思われた部分もあったのですが——以前はもっと細い透明な「線」のイメージだったので——やはりそれは年齢によるもので仕方ないのかもしれないと思いつつ、しかし、それを上回る技術とセンスでやはり魅せられてしまいます。
「ある晴れた日に」の最後 ”l’aspetto!” の絶唱、結びの “tto”は本来は8分音符なのですが、ここは後奏1小節に被るくらい十分に伸ばして歌われ——そうそう、楽譜から逸脱していようとも、聴きたいのはこれ! と嬉しくなりました。 こういう聴衆の願望を叶えてくださるところが、「センス」だと思うのです。
今回は、歌の前に森さんご自身の解説が入り、とてもわかりやすい構成となっていました。
以前のこのリサイタルで、演奏中に客席のプログラムをめくる音が気になり、そのことをアンケートに書いたことがありますが(めくらずに済む工夫をしてください、とのクレーム笑)、そういう声を主催が拾ってくださったのかもしれません。
また、ピアノ伴奏の山岸茂人さんによる独奏も4曲あったのですが、この演奏も素晴らしく、これがピアノリサイタルとしても満足感を得られたのではないかと思える演奏でした。リスト「ペトラルカのソネット」の超絶技巧、そして同じくリスト編曲の「イゾルデの愛の死」は、この演奏会のタイトルにも沿ったもので、重量級のアリアとも関連性があり、プログラムとしても秀逸。これらの曲目紹介は山岸さんご自身によるものでしたが(話されるのを聞くのは初めて)、お話も上手くて、これまで黙っておられたのが勿体ない(笑)
ところで、舞台姿も美しい森さん、衣裳についても触れておきますと——前半は濃い赤のノースリーブで花の装飾があしらわれたもの。後半はアイスグリーンのたっぷりとしたドレスで、透けた長袖パフスリーブのデザインがとても華やかで、客席から感嘆の声が上がりました(私もそのひとり)。
といったことで、全てに満足感いっぱいのリサイタルでした。
やっぱり森麻季さん、素晴らしい!
◇アンコール
菅野よう子:「花は咲く」
プッチーニ:「ラ・ボエーム」より「私が街を歩けば(ムゼッタのワルツ)」
◇座席
M列上手側。やはりこのあたりが舞台と同程度の高さで見やすい。