19時開演 フェスティバルホール
先月に続き、大フィルの定期を鑑賞。
今回は20世紀前半生まれの3人の作曲家の作品と、シューマンのチェロ協奏曲、という定期ならではのプログラムでした。

前半は、昨年亡くなられた湯浅譲二氏が2008年に亡くなった妻への哀悼を作品にした「哀歌(エレジィ)」。言葉にできない感情を表現できるのが音楽、とはよく言われることですが、それをここまで直接的に感じる音楽を聴いたのは初めてのような気がします。
衝撃、悲痛な叫び、慟哭といったものを連想させる音楽。心が張り裂けそうでも、そのままの感情をあらわにするのは普通の理性の持ち主には叶わぬこと。音楽ではそれが可能なのだ、と。
「心が張り裂けそうな」弦楽器の旋律と音色。大編成のオーケストラで聴くとかなり大仰な印象でもあるのですが――帰宅すると妻が血だらけで倒れていた、といったサスペンス・ドラマの一場面を連想するような――この作品、オリジナルはギター・マンドリン オーケストラの作品であるとのこと。撥弦楽器では、かなり印象が異なるのではないでしょうか。オリジナルでの演奏も聴いてみたいものです。
続いては、巨匠イッサーリス氏をソリストに迎えた、シューマンのチェロ協奏曲。実はこの作品、生で聴くのは初めてでした。ロマン派らしい「歌」がある素晴らしい作品なのに、演奏機会が少ないのが不思議です。
最初の一音目で、音程の確かさと、独特の色合いや柔らかさを感じる音色に引き込まれました。決して強い音ではないのに、説得力がある。後からガット弦使用と知ったのですが、あの音色はそれ故だったのでしょうか。そして、すっかり手の内に入った演奏。目を閉じて瞑想するが如くの没入感、あるいは時折ブルーの目を大きく見開いてマエストロとアイ・コンタクトを取ったりも。なかなか聴けない作品を最高のプレイヤーの演奏で聴けた貴重な体験でした。
休憩後は、ポーランドの作曲家、パヌフニクおよびルトスワフスキの作品。二人とも1910年代の生まれで、ポーランドが社会主義国であった時代に活動した作曲家です(パヌフニク氏はイギリスへ亡命)。
パヌフニク「カティンの墓碑銘」。これはポーランドの捕虜がロシア(ソ連)のカティンの森で虐殺された事件を扱った作品。前半の「哀歌」同様、悲痛な作品です。ヴァイオリン・ソロから静かに始まり、徐々に音が重なり、警告のように聞こえるティンパニも印象的。弦の重なりが美しい――美しいことは救いである、と思ってしまうような音楽でした。
続くルトスワフスキの「管弦楽のための協奏曲」。ドイツ占領による荒廃からの復興を祝う作品として作られ、ポーランドの民謡が取り入れられているとのことですが、祝祭感や民族色などは感じられず、こちらも「哀歌」同様、サスペンスフルな印象。弦楽によるフーガから始まり、ファ♯↘ラ♯↗レ♯↘ソ というチャイムのような音型(受難を示す十字架音型でしょうか?)の主題はかなり強烈で、今も脳内をグルグルと巡っています。
調性の指定もなく、現代音楽の類なのですが、リズムの立った音楽であり、シロフォン、チェレスタ、ピアノなども効果的に使われていて、なかなかに興味深く前のめりで聴ける音楽でした。それに大フィルの演奏が素晴らしい。冴えわたったオーケストラの響きにはなぜか清々しさをも感じました。美しい旋律を聴くのとはまた違った、音楽を聴く楽しみを与えてくれる演奏会。定期ならではのプログラム、堪能いたしました。

◇ソリスト・アンコール
サリー・ビーミッシュ編:カタルーニャ民謡「鳥の歌」
カザルスの編曲・演奏で有名な曲ですが、イッサーリス氏と同じイギリスの作曲家ビーミッシュ氏の編曲によるものでした。
◇座席
2階7列目下手側。

  
  
  
  