2025年12月27日(土) 鈴木優人指揮/関西フィルハーモニー管弦楽団「第九」特別演奏会

14時30分開演 ザ・シンフォニーホール

東大阪の第九から3日後、今度は毎年恒例のザ・シンフォニーホールでの第九。

年に2回第九を歌うのは初めての経験で、しかもクリスマス時期に重なるのも初めて。この12月22日からの週は、25日を除いてすべてリハーサル&本番で、クリスマスケーキとチキンは25日に食べるしかない!(別に義務ではないですが)という状況の年末となりました。

と、さて、鈴木優人マエストロとの第九は2年前にも経験しましたが、今回は更なる演出も加わった新鮮味のあるものでした。

また、バロック音楽やドイツ語にも精通されたマエストロの練習は、第九の和声や発音などへの言及もあり、基礎的な知識としても大変に有意義なものでした。

実は、藤岡マエストロの練習よりも先に優人マエストロの練習があったのですが、こちらで基礎を学び、その翌週に藤岡マエストロの楽曲背景のお話を聴き、ある種「第九セミナー聴講」の贅沢な経験をさせていただけたと感じています。

優人マエストロの今回の解釈で印象的であったのは、「すべての人々は兄弟となる」などというのは、戦争、紛争の続く現在の世界情勢を見てもありえない理想である、と(なので ”Ihr stürzt nieder, Millionen?” の箇所ではクレシェンド・デクレシェンドを大袈裟にしてほしいとのご指示)。

そこから察するに、本番でソリストがあえて楽譜を持っていたのは、「ここに書かれているので歌っています(私の本心ではないけれど)」という、第九の歌詞へのアンチテーゼを示す演出だったのではないでしょうか。藤岡マエストロが第九の前に「シンドラーのリスト」を演奏されたのと同義の表現だったのでは、と思っています。

またそれとは別に、うろ覚えですが、以前NHKで放映されていた第九(ベートーヴェン)関連の番組で、旧東ドイツでの研究によると、第九の合唱はそもそも酒場で歌うための曲だった、と紹介されていたことを思い出しました。ジョッキ片手に「『すべての人々は兄弟となる!』とな!(ありえへん~)」という感じでしょうか。なんだかとってもしっくりきます(笑)

という私の妄想はここまでにしまして――

当日の演奏ですが、オーケストラの並びは当然ながらの対向配置。24日とは低音部、打楽器が反転する、という、こちら合唱部としては聴き比べができて楽しい状況。ちなみにソリスト・合唱ともに弦楽器に合わせて、下手からソプラノ、バス、テノール、アルトの「スブタ(SBTA)」配置でした。

ところで、興味深かったのは、24日の配置で発見した「キュン」ポイントであまりキュンとしなかったこと。奏者は同じメンバーなのに、配置が変わるだけで印象が変わるものなのだとこれも発見でした。

その代わり?に、2楽章スケルツォの弦楽器フーガでは、2ndヴァイオリンから始まって反時計回りに各パートが追っていく様が見た目にも楽しめました。ベートーヴェンはこの視覚的効果も狙って作曲していたのではないでしょうか。

さて、ところで、今年の私のトピック、テノール独唱の宮里直樹さん。
宮里さんは、これで今年5回目の生鑑賞。1月NHKニューイヤーオペラ、3月びわ湖「大地の歌」、5月静岡AOI「ナクソス島のアリアドネ」、7月芸文センター「さまよえるオランダ人」。

そのいずれもが高いレヴェルの演唱でしたが、中でもアリアドネのバッカスは忘れがたく、ビンビンとホールを震わせる声量とつややかな美声に浸ったあの時間は本当に至福のひとときでした。今年のマイ・ベスト・アーティスト筆頭。

その宮里さんと年末に一緒に歌えるとは、でき過ぎではなかろうか、と。
加えて、本番の2日前に放映されたNHK「クラシックTV」に出演されていて、そのお茶目なキャラクターにも魅了され、実際にリハーサルの合間の動きなども可愛いくてすっかり釘付けでした。

バリトンの大西宇宙さん。伊藤貴之さんとはまた異なったアプローチで、優人マエストロならではのバロック風にアレンジを入れたソロで魅了。声量、表現力はさすがでした。

さて、ようやく私の出番です(笑)
実は、その後風邪が悪化して、本番の朝は声が出ない状態でした。なので、登壇するべきか迷ったのですが、欠席することにより事務局の方の仕事を増やしてしまう申し訳なさと、やはり舞台に立ちたい(聴きたい)という思いがあって、参加することにしました。

話す声はどうにか出るようになったのものの、歌えるほどには出なくて、ここはもう「口パク」で通そう!と腹を括りました。一応両隣の方にはその旨お断りして、語頭、語尾の子音(”Fr~”、”~tt”など)つまり無声音のみ発声。口パクで登壇してよいとは全く思いませんが、この場合これが最良だったかな、と。それに音程に気を使わなくてよい分、発音(をしているつもりの口のポジション)はしっかりと行い、これはこれでよい経験になったと思っています。

そうそう、ゲネプロ時にマエストロが「Fの発音がもっと欲しい」と、傍らにおられた宮里さんにアドヴァイスを求められたのですが、宮里さん、自分もあまり得意ではないけれど、と謙遜されつつ、「唇を硬くすると却ってうまくいかないので、唇はやわらかくしておいて腹圧で押すとよい」と教えてくださいました。これは効果てきめん。ありがとう宮里さん! と、またまた宮里さん推し(笑)

――いろいろと書き連ねてしまいましたが――この日の全体的な印象としては、とても美しい第九で、3楽章などは薫風が吹き抜ける草原が思い浮かぶような清々しさがありました。やはり第九は素晴らしいな、と感じた次第です。

2階席最前列で聴いた夫によると、合唱はこの日の方が断然よかった、とのこと。人数が多かったのと、ホールの音響が良かったからかなぁ、と(その良席は私からのプレゼントだったのですが)。

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