19時開演 いずみホール
同シリーズ3回目のこの日は、交響曲第3番「英雄」とピアノ協奏曲第3番のプログラム。

ピアニストは、この3回公演シリーズをセット買いした最も大きな動機付けの阪田知樹さん。阪田さんはフォルテピアノでの協奏曲演奏はこれが初めてであったとのこと。
開演前にマエストロと阪田さんでのプレトーク。弁舌にも優れるお二人のトークはテンポがよくかつ理解しやすく、鑑賞の助けになるものでした。
まずこの日使われたフォルテピアノは、1820年製のグレーバー。復刻版ではなくオリジナル。グレーバーは以前にも聴いた記憶があり、当ブログを検索したところ、2022年2月の川口成彦さんのオール・ショパン・リサイタルで聴いていました。これも1820年製だったので、同一個体?だったのかもしれません。
鍵盤は6オクターブ、白鍵は象牙で、モダンピアノよりも鍵盤幅が細い――阪田さん「自分のように手が大きいピアニストは、指をキュッと寄せ、つま先立ちのようにして弾かなければならない」とのこと(わかりやすい!)。
余談になりますが、優人マエストロが「ピアニストの夢として、巨大な空間にあらゆる年代のピアノを並べ、その作品の年代に合わせたピアノで演奏する」というものがある、と仰っていたのですが――それは、こちら鑑賞者の夢でもあります。ベートーヴェンのソナタ32作品をその年代に応じたピアノで弾いていく、という企画、あったらいいですね!
と、話は戻り、今回のグレーバー。ペダルは5本あり、右からダンパー、モデレーター、ダブルモデレーター、ファゴット、ウナコルダ(ソフトペダル)。これは実演してくださいました。どこでどのペダルを使うかということも決めてある、とのことで、珍しく楽譜ありで演奏されたのは、ペダルの種類を書き込んでいたからかもしれません。昨年のラヴェル「左手」と同様、譜めくりの動作もスタイリッシュ。
そのフォルテピアノの演奏は、前回、前々回に比べるとかなりモダンピアノに近づいているものの、音色は「セピア色」。ピアノの周りの空間だけタイムスリップしたかのようでした。
しかしやはり、さすが!と唸ってしまう演奏。何を弾いても上手い人は上手い。終盤に向かうにしたがって、その思いは強くなりました。何しろ指の廻りが素晴らしく打鍵が明瞭。約2年前のリサイタル時には「今年は20作品もの協奏曲を弾いた」と仰っていた百戦錬磨の阪田さん、オーケストラとの音量バランス、タイミングの絶妙さ。ピアノが埋もれないようにオケより一瞬遅く入る、というのはこれまでにも遭遇したことがありますが、「一瞬早く入る」という技に、その手があったか!と。俊敏さと余裕。技術と経験。
――実は2楽章ラルゴでいっとき寝落ちしてしまったのですが――どれくらいの時間であったのか?一瞬だったのかもしれませんが、目覚めたときに、まるで家のベッドにいるかのような錯覚を起こしていました。完全にリラックスしていたようです。その後の頭のスッキリさときたら!心地よい音楽のもたらす効果を実感?よいことではないですが、それも含めて充実の鑑賞体験でした。
休憩後は、交響曲第3番「英雄」。
この演奏が素晴らしかった!
力感溢れるマエストロに導かれ、オーケストラは実に生き生き。全楽章とも速めのテンポでアクセントを効かせ、引き締まった「筋肉質」な演奏。弦10-8-7-6-4の小編成で、さしずめ「細マッチョ」といった感じでしょうか。小廻りの利く編成を活かした、新しい「英雄」像の提示。コンサートマスターは元N響コンマスの白井圭氏。それがまた新鮮な印象で、鋭く切り込むかのような推進力がありました。
極めて解像度が高い演奏でもあり、1楽章の印象的な不協和音が、実は別の箇所にも現れていることなど、これまで気づかなかった細かな和声を聴き取ることもできて発見も多数。
また、3楽章のホルンの三重奏の強く豊かな響きに感嘆。舞台後部壁の反響の効果なのでしょうか、深い谷底で吹かれているかのような、初めて聴く類の響きでした。その他木管のアンサンブルも素晴らしく、このところ関フィルは私の中で「快進撃」。
このベートーヴェンシリーズは来年度も続くのですが――前2回はフォルテピアノが今回よりも更に古い時代のものであったこともあって、モダン・オーケストラとの組み合わせに賛同しきれないところがあり、来期はもういいか、と思っていたのですが――フィナーレを聴きながら、このレヴェルの演奏を聴かせていただけるのであれば、来期もまた来なくては!と考えていた次第です。
こうして今年もまたコンサートが増えてゆく‥。

◇ソリスト・アンコール
マエストロとの連弾。
ベートーヴェン:弦楽三重奏曲第1番 変ホ長調(英雄と同調!)
第5楽章「メヌエット」(ピアノ連弾編曲版)

