18時30分開演 京都文化博物館別館ホール
10月のカフェ・モンタージュ「A.スカルラッティ」の演奏会時にご案内をいただいたもので、同じく菅原起一さん企画による公演。

カフェモンでの演奏会に続き、菅原さんの藝大同級生のソプラノ竹田舞音さん、そこに今回は同じく同級生のメゾソプラノ山下裕賀さんが加わった共に日本音楽コンクール第一位獲得の豪華な声楽陣と、古楽器もモダンも演奏できる弦楽奏者(チェロは上村文乃さん!)でのアンサンブル。この編成で、いずれも生で聴きたかったペルゴレージとペルトが聴ける、という願ってもない演奏会でした。
開演の15分前から菅原さんによるプレトーク。
古楽の和声を用いたペルト作品はペルゴレージと抱き合わせで演奏されることが多いこと、ペルトは存命で今年91歳になること(小澤征爾、パヴァロッティと同い年ですね。ついでに我が亡母も)、またペルトのスターバト・マーテルは、アルバン・ベルクの生誕100年記念で1985年に書かれたことなどの解説がありました。(ちなみにベルクの没年は1935年で、ペルトの生年)
なお、プログラムに書かれていた菅原さんのエッセイによると、藝大時代に古楽のアンサンブルを行ったこともある竹田さんと山下さんでペルト作品での演奏会を行うと、お二人のコンクール優勝とペルト生誕90年のお祝いが一気にできるのでは、という思い付きによって企画が進んだ、とのことでした。そして弦楽奏者の方にも連絡を取って、奇跡的に日程が合ったのがこの日であったとのこと。こちら観客としても、その奇跡の1日に立ち合えたのは幸運でした。
ペルゴレージのスターバト・マーテルは、菅原さんの弾き振りオルガンと弦楽4部の編成(ピッチは後半ペルトに合わせて440Hzとのこと)。
伴奏に徹した感のある素朴に響く器楽と声楽とのバランスもよく、竹田さんの透明感と山下さんのまろやかで艶のある歌唱。元銀行(旧日本銀行京都支店、重要文化財)の吹き抜け空間は適度な残響があり、気持ちよく伸びる美声を堪能しました。
それにしても、山下裕賀さん。昨年のアリアドネの音楽家も素晴らしかったけれど、宗教曲も上手い。安定感。何十年もキャリアを積んだベテランの風格すら漂っていて(福原寿美枝さんみたいな)、「先生」とお呼びしたいくらい(笑)。NHKニューイヤーオペラにも出演されていましたが、既に日本を代表するメゾソプラノだと確信しました。
後半のペルト。
こちらの編成は、声楽にテノールが加わり、弦楽はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3部。3+3の編成で作曲されたとのこと。菅原さんは指揮のみ、それも要所の冒頭に合図を出すのみ(リズムが一定の場合の指揮法なのでしょうか?)でした。
テノール島崎涼さんの澄んだ声も素晴らしく、歌手3名のノン・ヴィブラートでの歌唱は美しい――余談ですが、終演後に竹田さんのお父様(テノール竹田昌弘氏)にお聞きした話では、空間を使って響かせる場合は敢えてヴィブラートをかけないのだとか。知りませんでした(色々と勉強になります)。
私が初めて聴いたペルト作品は、10年前の合唱団の公演で、合唱曲の前にオーケストラのみで演奏された「弦楽のためのスンマ」。荒野にひとりポツンと佇んでいるかのような寂寥感と不思議な透明感に瞬時に惹き込まれたのを憶えています。
このスターバト・マーテルも同様に、近しい人物を失くした悲しみと喪失感、ひいては人が潜在的に心の中に持つ孤独感をも想起させる音楽。ルネサンス期の教会音楽を彷彿とさせるものでもありますが、その普遍性に思いを致す音楽です。
菅原さんのプレトークによると、ペルトは現在最も演奏されている作曲家なのだそうです(この日も世界各地の5か所で演奏予定とのこと)。十二音技法を経て、この和声に行き着いたそうですが、人の心を掴むのはいつの時代も「普遍性」なのだと改めて認識した鑑賞体験でもありました。
それにしても、この優れたアンサンブルで、しかも平土間の至近距離で聴けたのは贅沢の極み。まさに一期一会の演奏会でした。


