19時開演 ザ・シンフォニーホール
桁外れの才能に驚嘆。
アレクサンドル・カントロフ・・
2019年のチャイコフスキーコンクールの覇者(ちなみにこのときの第2位が藤田真央さん)で、昨年秋に東京で行われたリサイタルの非常に高い評判と、こだわり満載の感のプログラムに魅かれてチケットを購入したのですが・・
いやはや、それはもう、ものすごい演奏でした。
人間の能力でここまでできるのか !? と呆然。
「プログラムに超絶技巧作品も入れてみました」とはまったく異なる次元。殆ど全てが超絶技巧。オクターブでの複雑な進行、交差しまくる右手左手、それらが超高速連打で行われるのです。しかも鳴らしている全ての音が明晰に聴こえる。
そしてただアクロバティックに演奏するのではでなく、プログラム全体、そして1曲1曲にもストーリーを感じさせるのです。
弱音も非常に美しいのですが、美しいことが目的ではなく、次に来る激烈な表現のための美弱音であると察知できる。観客を音楽の次へ次へと運んでいくその説得力もずば抜けたものがありました。
後半プログラムは、両端にリスト「巡礼の年第2年」を置き、その間に同じくリスト「別れ」「悲しみのゴンドラ」、それにスクリャービン「焔に向かって」を入れた構成で、これはリストのこの「巡礼の年イタリア」に物語を付加し、再構築したものなのだろうと推測しましたが、曲間に間を取らず続けて演奏したのは、これらをひと続きの作品として観客に提示したいからなのだと、その意図を理解しました。
間に拍手・返礼など余計なものを入れず、大きな作品としてひと筆書きで描く。まるでワーグナーの楽劇のようです。オペラを鑑賞しているような気持ちになって聴きました。
大きな呼吸と体の動きで次の曲へ向かう体勢を観客へも示していたのですが、なかでも「焔に向かって」が終わり、終曲「ダンテを読んで」に繋がる部分で左手を大きく宙に舞い上がらせた瞬間は、焔をかいくぐりこれから地獄の門につき進むぞ!といったような鬼気迫るものがあり、まるでストロボ映像のように目に焼き付きました。
リストは自らの演奏技術を誇示するために超絶技巧作品を書いたと言われています。そしてカントロフさんは「リストの生まれ変わり」と評されているようですが・・しかし、その超絶技巧でさえも作品表現の一手段、と感じてしまうほどの演奏でした。
すごいピアニストがいるものです。突き抜けた才能。
ご両親ともにヴァイオリニスト、お父様は、かのジャン=ジャック・カントロフ。
音楽的才能の遺伝や環境は当然のこととして、しかしこれほどに「弾ける」ピアニストの能力はどのように出現するのか?「ピアノが弾ける」とは脳のどのあたりで決まるのだろうか?とそんなことも考えてしまったのでした。
次はどんな音楽を聴かせてくれるのだろう、そしてどんな音楽家になっていかれるのだろう?
これから先もフォローしていきたいピアニストがまた増えてしまいました(笑)
◇アンコール
観客の熱い喝采に応えて5曲ものアンコール。1曲終わるごとにスタンディング・オヴェイションが増え、終演時にはほぼ総立ち。
・ヴェチェイ(シフラ編):悲しきワルツ
・ストラヴィンスキー(アゴスティ編):「火の鳥」フィナーレ
・グルック(ズガンバーティ編):精霊の踊り
・ブラームス:4つのバラードop.10から第2曲、第1曲
◇座席
1階N列下手側中央寄り
先日のセンチュリー同様、手も横顔も、そしてペダリングもよく見えました。
しかし客入りは4割程度。勿体ない!チャイコン優勝者なのに。先日のマルシア・マルシアさんの満席を思い、ショパコンの配信による集客力を改めて感じました。(マニアックなプログラムの所為も?男性客割合高い)
◇その他
休憩中にアナウンスがあり、なんと「カーテンコール時に写真撮影ができます」とのこと。
もちろんスマホでばっちり撮影しました!拍手して、写真撮って、立ったり座ったり、双眼鏡覗いたり外したり、忙しかったです(笑)
ところで、後日判ったことですが——フランス出身のカントロフさん、「カントロフ」という苗字はロシア系だけど、もしや?と思い、パパ・カントロフをwikiってみたところ、やはりのユダヤ系ロシア人でした。
この鬼才ぶりはユダヤ人由来のものだと思うとストンと腑に落ちるものがありました。