15時開始 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール
リサイタルで何度も訪れているこの小ホール。
ピアノを聴くのにこれほど適したホールはないと思っているのですが、そのバックステージツアー開催の情報を2日前に知り、予定を調整し午後休暇を取って行ってきました。
毎年開催されているツアーで、都度趣向を変えているそうですが、今回はピアノに焦点を当てた企画となっていました。
ステージには、ヤマハ、スタインウェイ、ベーゼンドルファーの3台のグランドピアノ。
前半に、このセンターの舞台監督、竹内氏からホールの建築など概要についての説明があり、その後に楽屋等の「バックステージ」の見学。後半は「オーケストラの舞台裏」のタイトルで、ステージマネージャー生田氏のお話やピアノの実演などがありました。
建築と音響とピアノ——まさに私の興味(建築は本業ですが)に「どストライク」の内容。以下箇条書きにて備忘録的に記します。
・ホールの稼働率は90%以上、全国的にも稀な高稼働率となっている。また、リピート率も高い(=演奏家の満足度が高い、ということですね)。
・内部の構造について
フラッターエコー防止のため壁は内側に向かって斜めになっており、壁面ごとに角度は異なるが、最大傾きは25度。
当初は八角形の平面形状に沿って八角錐の計画としていたが、中心に音が集まってしまうため変形させ、床と天井の中心はずらし、天井の中心は舞台側に寄せている。
舞台から天井までの高さは13メートル。これは大ホールと同じ。
・仕上材
床はスコテットカム(←初聴きの木材、調べたけれど不明)、壁はマホガニー。椅子もマホガニー。これは大ホールも同じ。リブ状の壁の奥の黒い部分は吸音材となっている。ちなみに中ホールは残響を短くするため柔らかい材質としており、壁は杉、床は米松。
・残響時間
小ホール:1.5秒、大ホール:2秒、中ホール:0.9秒
・音響反射板
エチゼンクラゲの正体? アクリル製で客席に直接音を届けるために設置している。高さは可変だが、ベスト位置としている——これについては、実際に柏手を打ちながら徐々に反射板を上げてくださったのですが、少しずつ反響音が大きくなっていく(直接音が小さくなる)ことがよくわかりました。
・所有ピアノ
小ホールのピアノ庫には、スタインウェイ1台とチェンバロを収納。ピアノ庫の扉を開けてあり、チェンバロも見せていただけました。ちなみステージ上の3台のピアノを含め、センターでは、スタインウェイ3台、ヤマハ1台、ベーゼンドルファー1台を所有しているとのこと。ピアニストからのリクエストは圧倒的にスタインウェイ。
・3台のピアノ弾き比べ
施設課スタッフでピアニストとしても活動されている三浦栄理子さんによる「亡き王女のためのパヴァーヌ」冒頭部分の演奏。下手側ヤマハから。次のスタインウェイはヤマハより繊細な音——と思ったら中低音がよく鳴ること!以前梅田のピアノ練習室を借りてスタインウェイを弾いたことがあるのですが、その冴えた音量にドキリとした、あの感触を思い出しました。ダイナミックレンジが広い。またヤマハに比べ黒鍵が細く、鼻梁が高く細い「西洋人の顔立ち」。次にベーゼンドルファー。鍵盤が97鍵あるため楽器本体の横幅も広く、響くハコが大きいがゆえに音量が豊か。品格のある音質。ちなみに低音部の鍵盤はブゾーニのリクエストにより追加されたとのこと。
・スタインウェイ
やっぱり選ばれるスタインウェイ。現在(世界中の?)ホールが所有するコンサートグランドの9割がスタインウェイなのだそうです。これは1873年に初めて現在の形のピアノを製造した当時の戦略によるものが大で、「スタインウェイ・プレイヤーズ」として著名ピアニストに無料で自社ピアノを供与——ガーシュイン、ラフマニノフ、ホロヴィッツ等——彼らが奏でるピアノはスタインウェイ=素晴らしいピアノ、であるという、いわゆる「ブランディング」に成功したわけですね。
さて、聞いたことはここまで。一連の説明の後に質問コーナーもあり、なかなか興味深い質問が飛んでいました。
ステージマネージャー生田さんの経歴についての質問もあり(スライドに「商社勤務」とあったので)、現職に就くまでの経緯のお話も面白いものでした。コンサートに多く通ったり、合唱で舞台に上がったりしていると、表だけでなく裏方の事情=スタッフの仕事などについても知りたくなってくるものです。そういった好奇心を満たしてくれる機会でもありました。
なお、小ホールの天井裏は狭すぎて見学で入るのは危険(タラップで上がっていく)ので、スライドのみの説明でしたが、大ホールは実際に入って見せていただけるとのこと。来年度、要チェックです。