2022年4月2日(土)芦屋国際音楽祭 バロック音楽プラスα

19時開演 カトリック芦屋教会

芦屋市出身のヴァイオリニスト日下紗矢子さんがプロデュースした音楽祭。4月1日~3日の3日間開催され、その中日に行ってきました。

「バロック音楽 プラスα」のタイトルで、バロック時代の作曲家シュメルツァーの作品とともに、時代が下って20世紀初頭の「新ウィーン学派」のシェーンベルク、ウェーベルンの作品を合わせた、なかなかに珍しいプログラム。珍しいと同時に、バランスの取れたとてもセンスのよいプログラムであったと聴き終わったあとでしみじみ感じました。

芦屋教会でのコンサートで、本当にここでしかない演奏会であるとともに、日下さんをはじめ、チェロの遠藤真理さん、横坂源さんなど日本を代表する弦楽器奏者でのなんとも贅沢な室内楽でした。

シュメルツァーは、生年が1623年頃(?)なのでバッハやヘンデルよりも2世代前。そのころイタリア人で占められていたオーストリアの宮廷楽長に自国人として初めて就任した人物とのことで、私は今回初めて知った音楽家です。

冒頭はウェーベルンがまだ調性のある音楽を書いていたころの作品でーーロマン派が熟しきって腐る寸前がもっとも旨い的な(笑)、美しい作品の「弦楽四重奏のための緩徐楽章」。
日本を代表する4名の奏者による演奏のなんと美しいこと。それが、ホールではなく教会で、同じ高さのフロアで目の前で演奏されるという贅沢。

続くシュメルツァーの「シャコンヌ」は、教会のオルガンに日下さんのヴァイオリンが寄り添うような近さでの演奏。しみじみと浸りました。

前半最後は再びウェーベルンで「6つのバガテル」。こちらは無調音楽。バガテルとは「断片」「断章」という意味で、作曲の途中で浮かんだけれど採用しなかった楽想を集めたもののことらしいですが、この作品は本当に断片で、演奏時間はどれも1分に満たないほど。「ふむ・・」と思っているうちに終わってしまう短さです。美しい、と感じるものではなく、色彩感としては「灰色」。劇伴音楽のような、心象描写のような、敢えて言えば「興味深い」音楽。これを30分近くやられたら疲れますが(笑)、6つ合わせてちょうどよいくらいの長さでした。なかなか生で聴く機会がない貴重な鑑賞体験で、実はこれが目的のひとつでもあったのです。

後半は、ふたたびシュメルツァー作品で、最も有名な「フェンシング指南」。これは描写音楽らしいですが、残念ながら私にはよくわかりませんでした(笑)。

そして最後はシェーンベルクの「浄夜」。これもロマン派後期の作品で、同時代の詩人デーメルの詩に基づいて書かれたもの。その詩はの内容はおおよそこういったことだそうですーー月夜に男と女がいる。女は告白する。「私のお腹には赤ちゃんがいるが、それはあなたの子ではありません」。男は苦悩するが、やがて「その子は私たちの子として育てようではないか」と女を赦すーー

いつの世にもありそうな、三面記事的内容ですが、これが芸術に昇華されているのですね。ワーグナーだったら3~4時間のオペラにしてしまうかも?と思ったりしました。

それはさておき、この演奏も素晴らしかった。
楽器ひとつひとつの旋律が明確に聴こえ、かつ音色が美しい。旋律が絡み合っている複雑な音楽ですがまったく複雑さを感じず、弦楽器のつややかな高音から豊かで能弁な低音まで、じっくりとその演奏に耳を傾け、堪能することができました。

ところで、日下紗矢子さん、私はベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のコンサート・マスターとして以前拝見したことがありました。プログラムを引っ張り出して確認したところ、エリアフ・インバル指揮の日本公演で、五嶋龍さんのソロでメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死、マーラー「巨人」というプログラム、2017年3月19日でした。コンマスが日本人女性だな、と思いながら聴いたのを覚えています。

「国際音楽祭」と銘打っているので、本来は外国人奏者の方も呼ぶ計画だったのだろうと思われますが、それが難しい中、それでもこれだけの演奏家を集めて、素晴らしい演奏を聴かせてもらえ、非常に満足度の高いコンサートでした。

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