2022年7月1~3日(金~日)沼尻竜典 オペラ指揮者セミナーⅧ~『フィガロの結婚』指揮法~

びわ湖ホール 大ホール

今回で最後となったオペラ指揮者セミナー。例年平日の開催でしたが、今年は幸い金・土・日での開催だったので、金曜日は休みを取り3日間通いました。

今回は「フィガロの結婚」。最後ということで、伯爵夫人に佐々木典子さん、スザンナに石橋栄実さんを特別出演として迎えた豪華版でした。

指導される内容は昨年のブログにも書いた通りで、指揮動作に関する基本的なことが半分以上を占めていましたが、今回は佐々木さん、石橋さんからの意見を聞く機会を多く設けられていて、これは受講生の方にはとても参考になったのではないかと思います。

・・余談ですが、佐々木さんと石橋さん、日本を代表するソプラノ歌手お二人がおられたので、観客としては「手紙の二重唱」をぜひ聴きたかったのですが、そのシーンは含まれず。残念でした(笑)。

ひと通り振り終わった後、そのお二人にマエストロが意見を求められ、「(敢えて)見ずに歌ってました」(分かりにくいから?)と言われたり、逆に「ずっと見ていないと歌えない」(拍の出し過ぎ?)と言われたり。なかなかに厳しい指摘もありましたが、2日目の終わりに佐々木さんが「ずっと気持ちはこちらとつながっていてほしい」というようなことを言われたのが印象的でした。

手はオーケストラを振っていても顔はこちらを見ていてほしい。呼吸を見てほしい、ということもあるのでしょうが、作品をつくり上げるためには指揮者と歌手が信頼関係でつながっていないといけない——文章にすると当たり前に思えることですが——そのためには、指揮技術はもちろんのこと、人生経験=人とかかわる経験から培われたいわゆる「コミュニケーション能力」が必要なのだと、その時の佐々木さんの言葉から感じました。単に音楽的才能だけでは成り立たない。それはオーケストラとの対峙にしてもそうですが、それに歌手が加わるオペラの指揮というのは本当に難しい・・。

私たち観客は、きちんと成立しているものしか鑑賞しないので(成立していないものは鑑賞する機会もないわけで)、当たり前と思って享受しているものが、実は高度な技術で出来上がっているという——世に出ているものは何であれそうなのですが、そんなことを改めて感じたのでした。

さて、これまでこのセミナーには4回行きましたが、今回初めて3日目を聴講しました。
最終日のこの日は、前半がリハーサルの進め方のセミナー。
5名の受講者が各担当部分を指揮し、何かあればマエストロが指導に入るのですが、基本的には「自力」で進める。

このとき、受講者の方の経験の違いが如実に現れました。練習初めのコンマスとの挨拶からして堂に入った感じの方や歌手に演技要請ができる方がいる一方で、ひと通り終わってもオケに何を指示すればいいのかわからず固まってしまう方も。こちらも同じ心境になってドキドキしてしまいました(笑)

オケへの指示の仕方では、「ここはざわざわとした雰囲気を出したいので、pでお願いします」に対して、マエストロ「前段は要らない。『pでお願いします』だけでいい」。限られた時間でいかに効率よく練習を進めるか、の極意ですね。「こういう感じ」みたいなことは評論家に言わせておけばいい、とも(笑)。指揮でその雰囲気が作れていれば言葉は要らない、ということでしょうか?ハイレベルな指揮者のあり方です。

また、オケに対して「○○していただいけますか?」の指示については、「『ヤダ!』って言われたらどうすんの?」。毅然とサッサと進めましょう(笑)

最終コマ、14時45分(正確には44分、音楽業界はパンクチュアル笑)からは総仕上げの「成果発表会」。これを鑑賞したのももちろん初めてでしたが、それまでダメ出し(指導)されていた受講生もここでは立派に「指揮者」。堂々と生き生きと指揮をされていたのは、その若く新鮮な雰囲気とともになかなかに感動的でした。

これまでの受講生には、その後有名になられたり、オペラの副指揮でお名前を見掛けたり、と活躍されている方が多く、そんなときに「プチ育てた感」を味わえるのもこのセミナーの楽しみのひとつ。

そんな観客にとっても大変に有意義なセミナーだったのですが、今年限りで終わってしまうのは本当に残念。

・・何事にも終わりというものはある。そんな諦念とともに会場を後にしたのでした。

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