2024年5月25日(土)山田和樹指揮/モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団兵庫公演 ピアノ藤田真央

14時開演 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

山田和樹マエストロが音楽監督を務めるモンテカルロ・フィルの来日公演ツアー初日。

真央さんが目当てでチケットを購入したのですが、山田和樹マエストロとモンテカルロ・フィルの演奏も魅力溢れるもので、素晴らしい公演でした。

オーケストラの音色は明るく煌びやか。最初の音が鳴った瞬間「明るい!」と感じました。地中海の陽光、カラリとした空気、吹き通る風などを連想させる響きなのです(行ったことはないけれど!)。

マエストロのキビキビとした動きとオーケストラ全体から漂う明るいオーラはぴったりとくるものがあり、やはりオーケストラは自分たちのカラーに合う指揮者を選ぶものなのだとコンサート全体を通して感じました。

1曲目の「コリオラン」序曲は、こちら観客にも非常に緊張感を与える作品ですが、マエストロの巧みさを感じさせるものでもありました。しかし、決して明るくはないこの作品を最初に聴いて「明るい」と感じさせたこのオーケストラの個性は強いものがあります。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。
真央さんを生で聴くのはこれで14回目(!)なのですが、今回の演奏も印象深いものでした。

長めのオケ序奏部、なかなか弾く態勢にならない真央さん。と、入りのタイミングで一瞬にしてピアノに向かい最初の音が強烈に繰り出されました。凄まじい集中力。客席のこちらは虚を突かれて居合切りに(笑)。彼は天才なのです。その佇まいに惑わされて油断してはなりません——と心の居ずまいを正しました。

それにしても、冒頭の強靭な左手バスの打鍵にはドキリとしました。真央さんのベートーヴェンのコンチェルトは、これまで生で4番と5番、そしてヴェルビエ音楽祭の配信で2番を聴いていますが、これはこれまで聴いたなかで最も強い表現であり、新鮮な印象でした。

3楽章アレグロにはアタッカで突入するだろうとの予想は的中し、発進から瞬時にトップギアにチェンジしたかのようなテンポコントロールに驚嘆。そして和音がすべて等価に響き、一音一音が丸く転がるいつもの素晴らしいピアニズムも堪能。

一方で2楽章のラルゴ、これはどれほどの美音で奏でられるのだろう、と妄想していましたが、こちらの思惑とは少し異なるものでした。ピアニシモの煌びやかさは控えめで、幾分鈍くくぐもった響き。水中から曇り空を見上げているような、一種不透明さを感じさせるものだったのです。これは真央さんの意図であったのか、ホールの響きに起因するものであったのか?

昨秋シンフォニーホールでのリサイタルで聴いたこの上ないひそやかな煌めきの再現を期待していたのですが——勝手に想像するのは良くないものだと思いつつ——このホールの響きはピアノには不向きなのではなかろうかと、これまでの他のピアニストの演奏を振り返ったりもしました。

さて、後半の「幻想交響曲」。
マエストロは暗譜。時に煽り、時に流し、オーケストラから引き出す音楽は生き生きとしたもので——実はこの作品、あまり好きではなかったのですが、こんなに「見える」音楽だったのかとその魅力に目覚めました。

管楽器の演奏も優れたもので、3楽章「野の風景」で2階席の上手奥で演奏されたバンダのオーボエの澄んだ音色、そして5楽章のクラリネット、Esクラリネットの掛け合いでの奏者の演技力。こんなに演技を伴ったクラリネットの演奏を聴いたのは初めてで、このオーケストラの明るさを象徴しているようでもあり、印象に残るものでした。

・・これは素晴らしい演奏になる!と、マエストロと大編成オーケストラを眺めるのは、年に何度もない至福の時間。果たして、終演後は盛大なブラヴォーと喝采に包まれたのでした。

 

◇ソリスト・アンコール
ブラームス:8つのピアノ小曲より第3番間奏曲 Op.76

◇オーケストラ・アンコール
ビゼー:「アルルの女」第2組曲より「ファランドール」

プレトークで、マエストロが「今日の作曲家はイニシャル『B』で、バラすとアンコールも『B』です」と。ピアノはドイツのBでブラームス、オーケストラはフランスのBでビゼー、までは予想できました(自慢?)

◇座席
2階最前列中央。もちろん良席。バンダ・オーボエの響き良し!

◇その他
山田和樹マエストロのコミュニケーション能力!
プレトークでは、今回ツアーでアシスタント指揮者を務めるスーパーキッズオーケストラ出身の岡本陸氏の紹介もぬかりなく(選挙の応援演説の様相)、アンコールではプロヴァンス太鼓のパーカッション奏者を指揮台に招き、客席を沸かせていました。客席からは手拍子も発生、マエストロも客席に向かって指揮をし、ニューイヤーコンサートのような盛り上がり。

終演後は止まない喝采に応え、マエストロとコンマスの一般参賀。と思いきや後から他の奏者の方もぞろぞろと舞台に戻ってくる(着替え中の方も)という、今まで見たこともない光景が繰り広げられました。舞台と客席の双方で手を振り合い、ディズニーランドのパレード状態。大いに盛り上がったツアー初日。幸先よし!——と、来週金曜日の京都公演にも行く予定なのであります(笑)。

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