2020年6月28日(日)METライブビューイング「ポーギーとベス」

12時開演 神戸国際松竹

コロナ禍で中断となっていたMETライブビューイング。
4月3日から上演されていたこのプロダクションは、今シーズン中、最も観に行きたかったものでした。しかし、この時期は緊急事態宣言が出される10日ほど前で、上演されてはいるものの、映画館に行くと家人に何と言われるかわからない(そこ?)という状況だったので、諦めていたのです。

なので、このプロダクションが再開されたのは、本当に嬉しかった。
そして、期待以上の素晴らしい公演!! 今まで観たMETビューイングの中で最も感動した、といっていい作品でした。

まさにMETでしかできない、METでやるべき作品で、ほぼ全てのキャストが黒人(ガーシュインがそのように指示していたとのこと)。そしてその歌手たちの歌唱、演技、ダンス、ルックス、どれをとってもこれ以上ないと思える素晴らしさでした。

ぜひ観たいと思った大きな理由は、ポーギー役のE.オーウェンズの演唱を聴きたかったから。数年前の同じくMETの「ルサルカ」での「水の精ヴォドニク」役が素晴らしく、「佇まいそのものが声」とでも言うのでしょうか、立派な体躯すべてが振動して声になっているような深々とした低音とチャーミングなルックスにすっかり魅了されたのです。

そして、今回のポーギーは、「当て書きでは?」と思えるほどのはまり役でした。
開演前にMET総裁が挨拶に登場し「オーウェンズは風邪を引いているが出演します」という断りがありましたが、途中まではそんなことは全く感じませんでした。終盤に少し声がかすれたのも臨場感があってよかったとさえ思ったほどでした。

そのほかの歌手も書きだすと止まらないくらい素晴らしかった。

セリナ役ラトニア・ムーアのアリア「うちの人は逝ってしまった」の絶唱。
スポーティング・ライフ役のフレデリック・バレンタインの狡猾さと執念深さ(ヘビのような)を見事にあらわした動きも含めて「当て書き」レベルのなんとも魅力的な悪党ぶり。

キレキレのダンス、魂が揺さぶられるようなゴスペルの合唱。アフリカ系アメリカ人のエンターテインメントの要素がぎっしりつまったオペラで、かつてゴスペルにハマっていた頃を思い出して胸が熱くなりました。

そしてまた、これまでにないほど、ヒロインのベスに感情移入、共感してしまったのです。一途に愛を捧げてくれるポーギーといるのが幸せだとわかっていながら、悪党だが魅力的なクラウンやスポーティング・ライフについて行ってしまう(薬物依存という別の側面もあるのですが)・・そのような経験はありませんが(笑)、「普遍性」というものですね。そんな女心がこれほど丹念にわかりやすく描かれているオペラは今までなかったように思うのです。(共感できないヒロインはオペラ作品にいっぱいいますが、それはまたの機会に綴ります 笑)

そして、このオペラがMETで上演されたのは2月でしたが、5月の白人警官による黒人男性殺害事件が起きた後に観ると・・白人警官に黒人が取り押えられるという、最近ニュースで見た動画そっくりなシーンもあり・・初演から85年経た今も根本的には何も変わっていないという現実を改めて認識することになってしまいました。

カーテンコールで、”Bravo”ではなく、「Ah~!」とも「キャー!」ともつかぬ発声でずっと叫び続けていた観客(たぶん黒人女性。強靭な喉に感服)がいて、私の代弁をしてくれているようで胸のすく思いでしたが、そんな客席の反応や熱さも、上演があの事件後であれば少し種類が異なったものになったのでは?、とそんなことも考えさせられたプロダクションでした。


ネットで調べると「全3幕」とありましたが、このプロダクションは1幕と2幕をつなげて1幕としていました。ワーグナーで長さへの耐性はついていますが、100分超はかなり長い。場面転換で紗幕が下りるたび「休憩かな?」と期待し裏切られた?のも、長さを感じた要因だったように思います。

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