2023年12月23日(土)びわ湖ホール オペラへの招待「天国と地獄」

14時開演 びわ湖ホール 中ホール

びわ湖ホール声楽アンサンブルによる、オッフェンバック「天国と地獄」。
全4公演のうちの3日目を観賞しました。

セリフも歌詞もすべて日本語による上演。
時代設定は現代、セリフには時事ネタがふんだんに盛り込まれており、「劇団☆新感線」の舞台を彷彿とさせるような演出。演劇としても十分に楽しめるものでした。

それに加え——ではなく、これが本来なのですが、歌手に抜けがなく、歌唱が非常に優れていてそのクオリティの高さに感嘆。場面が進み、新たなキャストが登場するたびに、「この人もいい声!」といちいち嬉しくなるのです。びわ湖ホール声楽アンサンブルのレベルの高さを改めて感じた公演でもありました。

特に素晴らしいと感じたのは、ジュピターの市川敏雅さん。声量も上背もあり、神々の長の役柄がぴったり。中心となるキャストに華があると舞台全体が映えます。オルフェ有本康人さん、ブルトン/アリステ奥本凱哉さんのテノール陣も、声の良さに加えてコミカルな演技も素晴らしい。奥本さんの悪魔メイクと「でしゅ」の語尾、甲高い声でのセリフまわしにハマってしまって今も思い出して笑っています。コメディアンのセンスありすぎ!ユリディス山岸裕梨さんの終盤になっての高音絶唱は快哉!脇を固めるその他のキャストも個性的で聴き応え、見応え十分でした。

4名の女性ダンサーが途中さまざまな役をこなしつつ、もちろん終盤ではフレンチ・カンカンのラインダンスも。このダンサーのキレのよさと滑らかな開脚の動作にも感嘆。ラインダンスは倍の8名くらいいた方が見応えがあったと思いますが、これでも十分でした。

このオペラはギリシャ神話「オルペウスの悲劇」のパロディなのですが、そのストーリーの普遍性にも感服。亡くなった妻にもう少しで逢えるところで後ろを振り返ってしまう、という悲劇が、倦怠期ダブル不倫の夫が振り返ってしまい妻が消えてラッキー!のハッピーエンド?に変換されているのです。なんともパンチの効いた風刺で現代にも通用するブラックユーモア。こんな話が100年以上も前から存在していたとは‥。

今回の設定では、オルフェとユリディスの住まいはゴミ屋敷、天国は病院、と演出家のシニカルな視点が盛り込まれており、このオペレッタの大きな特徴である登場人物「世論」は「AI」。これには大いに納得しました。訳詞はバリトン歌手の宮本益光氏によるものでしたが、どこまでが訳で、どこからが創作なのかわからないほどつくり込まれたものでした。

原作の持つ普遍性、それを見事に読み替えたプロダクション。
先月の「こうもり」に続き、歌唱、演出ともに大いに楽しめた舞台でした。

それにしても、若く勢いのある澄んだ歌声を聴くのは快いものです。それに加え、ソロ登録メンバー(OB・OG)の層も厚く、開館から四半世紀が経ったびわ湖ホールの声楽アンサンブルは今や日本有数の声楽家団体と言えるのではないかと感じた今回の公演でした。

◇座席
1階J列下手側。舞台がよく見える良席。


演出家 岩田達宗氏のイラストによる人物相関図。演出家は何でもできるのですね。

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